一色 哲志 様
京都府で整形外科クリニックを運営されていた一色 哲志先生(以下、一色先生)は2024年6月に医療法人の持分をご譲渡されました。今回はクリニック開業の経緯から譲渡を決断された理由などについて、一色先生にお話を伺いました。
本社所在地 | 京都府 |
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診療科目 | 整形外科 |
譲渡理由 | 後継者不在 |
ストラクチャ | 持分譲渡 |
開業以前は、複数の病院で勤務医として働いており、多くの患者様と接してきました。
ときには待合室で声を荒立てる患者様の対応なども行っていたことから、心身ともに疲弊していて、患者様と今のままの向き合い方でよいのか、また、このまま勤務医を続けていくことへの不安や自身のキャリアにも疑問を抱きながら毎日を過ごしていました。そのような日々の中で、患者様に「また来たい」と思ってもらえるようなクリニックを開業したいという想いが段々と募り、『開業』という選択肢について真剣に考えるようになりました。
ちょうどその頃、当クリニックの前院長先生が後継者を探しているという情報が知り合いを通じて入りました。承継を検討したく立候補して、8月に前院長先生にお会いしたところ、その場で「君に任せるよ」と言っていただき、そこからとんとん拍子に話が進み、12月に契約を締結したうえで翌年1~3月は承継開業の準備をし、4月に正式に承継開業するという、自分でも少し驚くスピードで目標であった開業が実現しました。
開業当初は、前院長先生のもとで勤務していた職員のうち半数以上の15人を引き継ぎ、忙しくなるだろうからとさらに新たに職員10人を採用し、合わせて25人の職員と私で運営をスタートさせました。
私が最も大切にしてきたことは「患者様ファーストで、一人ひとりの痛みに寄り添う」ということです。
患者様が感じる痛みの要因は様々で、怪我が原因のこともあればストレスが原因のこともあります。これまで治療してきた患者様の中で私が一番驚いたことは、立ち上がれないほどの腰痛に悩む女性で、お薬を出そうが脊髄に麻酔を打とうが症状が改善されない方がいました。実はその方は、1週間後に結婚を控えており、腰痛の原因はマリッジブルーだったのです。これにはとても驚きました。
また、毎日家で一人で過ごしたくないという理由でクリニックにお越しになる患者様もいらっしゃいました。
患者様が何を求めてクリニックにお越しになるのか、身体的な痛みを診てほしい患者様もいれば、精神的な痛みを診てほしい患者様もおられて、勤務医時代との患者様の層の違いを実感しました。
整形外科としてできることは限られますが、職員には常に患者様の痛みに寄り添う姿勢を大切にしようと話していました。私の理想のクリニックは「患者様のテーマパーク的存在」であり、患者様に「また来たい」と思ってもらえるようなクリニックにしていこうという想いを常々話していました。開業当初はテーマパークのホスピタリティの本を読んだり、週に1回私が読んだ本の内容をスライドにまとめて職員向けの勉強会を行ったりもしていました。
勤務医時代から環境が大きく変化し、当時はまだ40代だったこともあってか、あまり周りが見えていなかったかもしれません。今振り返ってみて当時の自分に声をかけるとしたら「もっと余裕を持て」と言いたいですね。とにかく患者様の痛みに寄り添うことに必死でした。
60歳を過ぎて、勤務医時代の同年代の仲間との会話でも定年についての話が出るようになり、「私はいつまで続けられるのだろう、70~75歳くらいかな」と漠然と考えていました。
ちょうどその頃「求人を出してもなかなか職員の採用に繋がらない」「診療報酬は下がる一方、職員の給料は上げていかなければならず、自身の給料を下げざるを得ない」といった解決が容易ではない経営課題が出てきました。また、同じタイミングで近隣のクリニックの院長先生が突然お亡くなりになられるという出来事がありました。ご家族や職員、患者様が慌ただしくされている様子を目の当たりにし、「突然辞めるということだけは避けなければならない」と強く思うようになりました。また、「もし自分がこのまま経営を続けて70歳で辞めるときに、50歳を超える職員達がいたら、その人たちの雇用をどう守っていくか」ということを想像するようになりました。
「将来の選択肢に関する検討は、早めに始めた方が良い」「譲渡するなら、元気なうちに準備を進める方が良い」と思っていたときに、偶然に薬局の元経営者で譲渡経験を持つゴルフ仲間から、「急がないにしても、M&A仲介会社とかの話を聞いてみたら?今度、私が世話になったM&A仲介会社を紹介するよ。」と言ってもらい、譲渡を本格的に検討することにしました。その時紹介を受けたM&A仲介会社がCBパートナーズです。
CBパートナーズを私に紹介してくださった方とは毎月のようにゴルフをしており、「その方が薦めてくれるなら間違いないだろう」と思ったということはもちろんあります。
当時、複数のM&A仲介会社からクリニック宛てに譲渡に関するダイレクトメールが届き、実際に他社仲介の方と面談を行ったこともありましたが、CBパートナーズのアドバイザーの方は、私が抱えていた経営課題の話や将来への不安な気持ちに対して、まるで自分事のように耳を傾けアドバイスをしてくれました。その姿勢に「真剣にクリニックの未来を考えてくれている」と感じましたし、譲渡のメリットだけでなく、譲渡実行までに時間を要する可能性もあるといったデメリットまで正直に話してくれたことで、私が抱えるリスクに真剣に寄り添ってくれるという印象を持ちました。
あとは、私からの問い合わせに対し、当日中に解決が難しい内容でも何かしらの連絡をくれるスピーディーな対応や、いつも笑顔で業務を推進されている姿勢もとても好印象で、信頼できる方だと思いました。
職員と患者様を無事に引き継げることを最も重要視していました。次に、私も継続勤務できることも視野に入れながら譲渡先を検討しました。
実際にお会いした役員幹部の皆さんをはじめ、職員の皆さんから、これからの医療の可能性を広げていきたいという熱量を強く感じました。そういった姿勢で臨んでくださることに嬉しい気持ちになりました。
職員と患者様を無事に引き継げると思えたことが一番ですが、譲渡先の先生から「一色先生の好きなタイミングで勇退されていいですよ」と、非常にフレキシブルなご提案をいただいたことも決め手になりました。
私自身、譲渡後はどこかで雇ってもらって週3日程度を目安に勤務したいと思っていたのですが、他の病院やクリニックへの就職活動に抵抗もあったため、譲渡後も継続してこのクリニックに勤務できるということはとても魅力的な条件でしたね。
譲渡先の皆さんとの関係性は良好です。食事にも行きますし、趣味のゴルフをすることも約束しています。また、譲渡後間もない現在は従前同様の勤務日数ですが、ゆくゆくは短縮のお願いもしているため、ゴルフや筋力トレーニングに割く時間を増やすことができそうです。いつか、関西オープンゴルフ選手権競技に出場することを目標に、日々練習やトレーニングに励んでいます。
大きなトラブルはありませんでしたが、デューデリジェンスのために重要会議体の議事録など、開業以降の様々な記録を提出する必要があり、その資料を準備することは大変でした。正直、日々の業務もあってなかなか手が回らず、毎回十分な対応ができていたわけではなかったのですが、担当アドバイザーの方がサポートしてくれてスムーズに準備を進めることができました。そのほか、デューデリジェンスでの質問の数には驚きましたが、それも私が回答した内容を担当アドバイザーの方が整理して上手に譲渡先に伝えてくれたので、とても助かりました。
譲渡のメリットは、職員や患者様のため、地域医療を存続させることができることだと考えています。
私を含め、開業医の先生は「いつまで開業医を続けるか」について漠然としたイメージしか持っていないように思います。一方、急な病気にかかった場合など、いざその時を迎えてしまった時になってから準備を始めるのでは、家族や職員・患者様への影響も少なからず出てきてしまい、遅いように思います。だからこそ、自身が健康なうちから将来を見据えて、ゴールを設定することが重要だと、私は考えています。そのゴールが私は地域医療を存続させることでしたし、そのゴールを実現させる手段として、譲渡を選択して良かったと思っています。
譲渡の注意点については、譲渡先が信頼に足る相手かどうか、自分が納得できるまで確認することだと思います。
譲渡先には、これまで私とともに地域医療をつくり続けてきてくれた職員や地域の患者様を引き継ぐわけですので、これからも健全な経営が期待できる相手かどうか、自身の目できちんと確認し判断する必要があると思います。
早めに将来を見据えたゴールを設定することが、まず大切なことの一つだと思います。さらに、そのゴールが今すぐの譲渡を視野に入れていない場合であったとしても、そのゴールを実現させる準備を進めるために、一度M&A仲介会社をはじめ、専門家の話を聞いてみたら良いのではないでしょうか。譲渡は、状況やタイミングなどにより、想定以上に時間を要する場合もあります。だからこそ、将来のことは将来に回すのではなく、今から考え始めるという姿勢を持っていただくのが良いと思います。
今回ご縁に恵まれ、全ての希望が叶う譲渡先に出会うことができたことを嬉しく思っています。非常に条件の良い譲渡先を見つけてくださり、私自身が一番納得できる形での譲渡が実現できました。ありがとうございました。