医療法人と一言で表現できますが、病院医療法人には様々な種類があります。
2007年に施行された改正医療法により制度改正がなされ、現在はその過渡期にもあります。
病院医療法人の殆どが採用する社団医療法人について、その内容などを解説いたします。
(病院)医療法人とは
病院医療法人とは、病院・医師・歯科医師が常時勤務する診療所や介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づき各都道府県知事の認可を受けて設立される法人です。
病院医療法人の代表的な特徴は、下記3点があげられます。
- 非営利であること
- 余剰金の配当が禁止されていること
- 原則理事3名以上と監事1名以上が必要
尚、以下では病院医療法人=医療法人とします。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084153_3.pdf#search=’医療法人とは
https://employment.en-japan.com/tenshoku-daijiten/11689/
非営利であること
株式会社は個人事業主が、更なる事業拡大=利益拡大を目指して設立されるケースが多いといえます。
医療法人も個人病院から、規模拡大のために設立されるケースが多くなります。ただし医療法7条5項において、営利を目的として病院等を開設しようとするものに対しては(開設の)許可を与えないことができる、とされています。
よって医療法人は非営利であることが大前提です。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001p9ka-att/2r9852000001pexa.pdf#search=’医療法人+非営利’
(56p)
余剰金の配当が禁止されている
株式会社は元来、出資者=株主が資金を出し合い事業を開始し、事業が成功した後に、利益を配当という形で分け合うことが原型です。よって株主に対し、蓄積した利益(剰余金)を配当として社外流出させることを認めています。
しかし医療法人では医療法第54条に「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と定められており、剰余金の社外流出がなされる配当は禁止されています。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001p9ka-att/2r9852000001pexa.pdf#search=’医療法人+非営利’
(56p)
原則理事3名以上と監事1名が必要
医療法第46条の2第1項において、医療法人では原則3名以上の理事と監事1名の設置が義務付けられています。株式会社に置き換えると、取締役=理事、監査役=監事のイメージです。
また、医療法人の業務は原則的に理事の過半数で決することとされており(医療法第46条の4第3項)、理事による合議のための理事会が通常設けられます。そして理事会は株式会社の取締役会に該当します。
医療法人は非営利が大前提ですが、大枠としては株式会社に類似の組織形態となっています。
社団医療法人の特徴とは
医療法人には社団医療法人と財団医療法人がありますが、殆どの医療法人は社団医療法人を採用しています。そして社団医療法人は下記2種類に分類できます。
- 持分定めのある法人
- 持分定めのない法人
持分定めのある法人
定款において、出資持分に関する定め(※)を設けている社団医療法人が“持分定めのある法人”です。
※社員(=株式会社の株主に該当)の退社に伴う出資持分の払戻し、医療法人の解散に伴う残余財産の分配に関する定め
ただし、社員の出資額に応じた払戻しが医療法の非営利性の確保に抵触する可能性があり、また剰余金の社外流出による医療法人の財産が不安定となる可能性もあることから、2007年施行の改正医療法により“持分定めのある法人”の新規設立は現在できません。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_shusshi_09.pdf#search=’持分定めない医療法人’
(7p)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000193986.pdf#search=’持分定めない医療法人’
(2p)
経過措置型医療法人
2007年4月の医療法改正以前に設立された医療法人の殆どは、持分定めのある法人です。既存の持分定めのある法人については、「当面の間」は出資持分の退社時の払戻請求権と、解散時の残余財産分配請求権が保証された「経過措置型医療法人」として存続が認められています。
しかし政府は持分定めのない法人への自主的な移行を、政策支援を行いながら促しています。
参考資料:
http://www.city.fukuoka.med.or.jp/jouhousitsu/report225.pdf#search=’経過措置型医療法人’
持分定めのない法人
医療法改正により、2007年4月1日以後に社団医療法人を設立する際は、持分の定めのない法人しか認められていません。持分定めのない法人は、税率の観点から更に下記3種類に分けられます。
- 社会医療法人
- 特定医療法人
- その他医療法人
社会医療法人
社会医療法人は、2007年4月施行の改正医療法で新設された新しい制度です(医療法第42条の2第1項)。
都道府県知事の認定が必要であり、認定要件は厳格ですが、認定を受けると、本来業務の病院・診療所及び介護老人保健施設から生じる所得について、法人税が非課税になるなどの税制上の優遇措置が受けられます。
また一定の収益事業についても手掛けることができます。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084153_3.pdf#search=’医療法人とは’ (20p)
特定医療法人
特定医療法人は1964年に創設された制度であり、租税特別措置法第67条の2第1項に規定されています。
社会医療法人と同様、承認の要件は厳格ですが、国税庁長官の承認を得られれば、法人税の軽減税率(19%)が適用されるなど、税制上の優遇措置が受けられます。
尚、収益業務は行うことができません。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084153_3.pdf#search=’医療法人とは’
(20p)
その他医療法人
通常の医療法人が該当します。税制上の優遇措置はなく、法人税率が適用され、また収益業務を行うことはできません。
社団医療法人を設立するためには
事業を開始するには人・モノ・お金の3点が必要不可欠であり、それは医療事業でも変わりありません。
社団医療法人を設立する際に必要とされる要件について、特にお金の観点から解説します。
設立のための資金や不動産などの出資を受ける
事業を運営するためには運転資金が必要不可欠です。医療法人は基金を集めることで運営資金を調達します。医療法人における基金は、株式会社の資本金に相当する存在です。
基金の金額は、新たに医療法人を設営する場合には、2ヶ月以上の運転資金を有していること(平成19年医政発第0330049号医政局長通知)、とされています。よって2ヶ月分の運転資金の金額が、社団医療法人設立の必要最低金額です。
尚、現金ではなく不動産や医療機器を、基金として充当することもできます(現物出資)。しかし現物出資の場合、その資産価値が妥当であるという公認会計士等の証明が必要となる場合があります(東京都は現物出資が500万円を超える場合)。
社員総会を行うための社員確保が必要不可欠
一般的に社員とは会社で働くサラリーマンやOLがイメージされます。しかし医療法人における社員は、一般的なイメージとは異なり、株式会社の株主に該当する存在です。
医療法人では重要な事項を決定する場合、社員総会を開催して決議を取る必要があります。そして社員総会の構成員が社員です。
株式会社では会社の譲渡など重要な決定を行う際は、株主総会での議決が必要です。医療法人における社員総会は、株式会社の株主総会に該当する決定機関となります。
ただし株主総会では、株主は株式の出資割合に応じて議決権が割り当てられますが、医療法人の社員総会での議決権は、社員は各一個の議決権を有する(医療法46条の3の3第1項)と定められています。
医療法人にとって社員総会は法人の最高意思決定機関となるため、医療法人設立には出資に加えて社員総会を行うため社員の確保も必要不可欠です。
社団法人になるメリット
個人開業医が医療社団法人を設立する代表的なメリットは、下記3点があげられます。
- 節税対策になる
- 役員退職金が受け取れる
- 欠損の繰越期間が長くなる
節税対策になる
個人事業主の税率は、累進課税で所得税と住民税を合わせた最高税率は約45%です。しかし法人化することで、支払う税金の対象は法人税に変わります。法人税は資本金額や事業規模などにもよりますが、資本金1億円以下で所得金額が800万円以上の場合の税率は23.2%です。
医療法人も同様であり、一定の収入を超過すると、法人化を行い法人税として納税することが節税につながります。所得税は累進課税であり、開業初期で収入が少ない段階では、法人化が税務上不利となりますが、一定の規模となった後は、法人化が節税対策となります。
役員退職金が受け取れる
医療法人化することで、様々な費用を経費として計上できます。個人病院の場合、事業主や専従者に対する退職金は経費として認められませんが、医療法人は役員退職金の経費計上が可能です(ただし退職金規定を整備して制度としての運用が必要)。
退職金は給与所得に比べても税制面で優遇されており、医療法人化後の退職金支払いは税務面からメリットが大きいといえます。
欠損の繰越期間が長くなる
個人の場合、赤字の繰り越しは3年間と決められています。しかし法人は、赤字を10年間繰り越すことができます。
事業運営を行う際、先行投資の発生や過去の負の遺産の償却等で、大きな赤字の計上が必要となる場合があります。
法人なら、10年間は赤字金額を繰越損失として計上可能です。しかし個人の場合、赤字が欠損として認められるのは3年間に限られるため、赤字額のカバーが終わる前に3年が経過してしまう可能性があります。
現状殆どの病院が社団医療法人として経営している
病院医療法人の形態としては、社団医療法人及び財団医療法人の2種類が存在します。ただし設立に多額の財産が必要となる財団医療法人の設立は、現実的なハードルが非常に高く、殆どの場合で社団医療法人が設立されています。
ただし社団医療法人にも、持分のあり・なしに加えて、持分なしの社団医療法人であっても、特定医療法人・社会医療法人・その他医療法人と種別が分けられます。更に過去に持分ありで設立された社団医療法人は、経過措置型医療法人として現在も存在します。
大きな制度改正の後、現在は過渡期的に様々な形態の財団医療法人が存在します。
ただし病院医療法人新設の際は、持分なしの財団法人の3パターンに事実上は絞られます(特定医療法人・社会医療法人・その他医療法人)。
よって医療法人の種類について、必要以上に複雑に考えないことも大切といえるのではないでしょうか。