昨今、病院数、病床数ともに減少の一途を辿る一方で、働き方改革や医学部の定員増により、勤務医のポストや働く機会が減少してきています。
「勤務医の就業状況として必ずしも恵まれた状況があるとはいえない」
と伝え聞くことも多くなってきました。
その背景を踏まえ、「いつかは開業して自分の医院を…」と考えてこられた勤務医の先生方が、
より具体的に独立開業を検討されることも増えているのではないでしょうか。
クリニックの開業を検討するにあたり、大きく分けて「承継開業」と「新規開業」という2つの選択肢があります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため一概にどちらが良いということはありません。
本コラムでは承継開業と新規開業の違いや、当社が行う承継開業のご支援についても詳しく解説していきます。
クリニックの承継は、医療機関の経営権や運営を後継者に引き継ぐことを指します。
開業医には定年がないため、体力的や年齢的に厳しい状態にもかかわらず無理をして診察を続ける先生も珍しくありません。
医療業界では、地域医療存続のために、M&Aを活用した承継が増加しています。
クリニックの承継には主に親族内承継と第三者承継の2つの方法があります。
医療機関を親族内で引き継ぐ方法です。
親から子供や他の親族に経営権を承継するため、
親族内の信頼関係が強調される一方で、経営に関する十分な資質や能力が備わった人物が、親族の中にいるとは限りません。
医療機関を親族以外の個人や法人に引き継ぐ方法です。
例えば、他の医療従事者や医療経営の専門家、投資家、あるいは医療関連の法人が経営権を取得する場合もあります。
第三者承継の場合、譲渡先の専門的な経営能力や資金力が重要と言えます。
どちらの承継方法が最適かは、個々の医療機関やご家族の状況、目的によって異なります。
クリニック承継には法的な手続きや契約が必要となるため、適切なアドバイザーの助言を得ることは欠かせないといえます。
新規開業と承継開業のメリット・デメリットとして次のことが挙げられます。
・スタッフや取引業者を選定できる
時間も手間もかかりますが、スタッフの採用に携わることができ、
取引業者は比較検討して選ぶことができます
・建物の内装や間取り、設備も思い通りにできる
内装や医療設備なども最新のものを導入することができます。
・開業までに費用・時間・労力がかかる
事業計画の作成から物件や医療機器の選定、
さらには内装や従業員の人材確保など、かなりの時間と費用を要します。
また、昨今は建築資材価格の高騰により、負担がさらに重くなっております。
・経営が軌道に乗るまで時間がかかる
集患対策として、SNSや口コミなどを使ってクリニックの認知度を高める必要があります。
さらに患者様との信頼関係もイチからになるため、来院率を高めるまで時間がかかり
収益も不安定なため事業の見通しが立てづらくなります。
・行政手続きを新たに行わなくてはならない
診療所の許認可手続きだけでなく、保健所への申請、加算の取得など、様々な行政手続きを行わなくてはいけません。
・最初から一定数の見込患者が確保されている
新規開業する際は、新規患者を探す必要があるため大きな労力がかかってしまいます。
しかし承継であれば既存の患者様がいるため、新たに集患する労力が省けます。
また、医院の名前・場所が地域に認知されているため、
新規の患者様も取り込みやすい状況にあります。
・今までの実績をもとに事業計画がたてられる
来院数・収益・経費・税金など、
以前どのような経営状況で運営していたのかを参考にでき、
そのデータを元に新たな事業計画を立て、自分なりの経営を試すことができます。
・医療機器の導入費用や内装設備費などの初期費用を抑えられる
開業に必要な初期投資が抑えられるため、将来の見通しが立ちやすくなります。
特に、昨今の物価高の影響で、初期投資を抑えられる承継開業のニーズは高まっています。
・前院長とクリニックの方針や考えが合わない可能性がある
引き継ぐ前と後で診療方針が異なる場合も少なくありません。
既存の患者様に引き続き来院してもらえるように信頼を得るための配慮が大切です。
また既存のスタッフとの関係も同様のことがいえます。
・医療機器や内装などの費用が必要な可能性がある
承継元の資産を引き継げることは医院継承のメリットですが、医療機器が古いものであったり内装や院内設備の老朽化が進んでいたりするケースもあります。
改装・修繕などが必要になると、想定より開業費用がかさんでしまう場合もあります。
開業後の経営に支障が出ないよう、事前に状態をしっかり確認することが大切です。
第三者承継する場合、以下のような流れになります。
当社で行っている、承継開業のご支援についてご紹介いたします。
ケースにもよりますが、通常9か月~2年程度の期間を要します。
それぞれの流れを詳しく見ていきます。
希望する立地や標ぼう科目、承継ニーズの有無、開業資金、ご自身の開業に関する想いなどをアドバイザーにお話しください。夢を叶えるために何が必要か、承継開業に限らず最善の選択肢をご提案いたします。
面談を行い、案件の紹介を希望される場合は、秘密保持契約を結びます。これは案件の詳細には承継を検討されているクリニックの財務情報や決算情報などの機密情報が含まれるためです。
M&Aは情報管理が最も重要と言われるほど、周囲への情報漏洩がネガティブに働きます。
そのためにも、まずは秘密保持契約を締結してからすべてのサービスを開始しましょう。
まずは医院名は記載せず、案件の概要のみを記載したノンネームシートを用いてアドバイザーが案件情報をご案内します。さらに興味を持たれた場合は、より詳細が記された案件概要書を共有します。
気になることがあれば、アドバイザーへお伝えください。
双方が会ってみたいということになれば、トップ面談を実施します。
譲渡を検討されている先生と譲受を検討されている先生が、初めて顔を合わせる機会です。クリニック内で行うことが多く、双方の自己紹介から始まり、なぜ譲渡を考えているのか、なぜ譲受を考えているのか、
譲受後はどのように運営をしていきたいのか、など相互理解のためのコミュニケーションをとってもらう場です。ここでは「具体的な条件面」だけの話をしないことが重要です。
過去、当社が支援させていただいた先で「医師同士が自由に意見を交換することで、初めて理解し合えることがある」と教えてくださった先生がいらっしゃいました。
トップ面談は「相互理解」が最重要であり「具体的な条件面」はその延長線上にあります。
譲渡元の先生はこれまで複数の譲渡先を検討される中、トップ面談後は1人(法人)に絞り込んで
話を進めていきます。交渉を進める理想のお相手が見つかったら、譲渡を検討している先生と譲受を検討している先生の双方が希望する条件やスケジュールなどについてを、アドバイザーが交渉・調整していきます。
諸条件が整えば、基本合意書を当事者間同士で締結します。双方が前向きに検討することを前提に、
承継についての細かい点を調整していくという意志表示であり、基本合意書の締結をもって、
具体的な条件を含めた話を進めます。
ご希望があれば、買収監査を行います。買収監査(デューデリジェンス)とは、
譲受希望法人や開業希望医師が、対象法人(病院や診療所等)に対して行う企業調査です。
これまで開示した情報と相違が無いか、財務、税務、法務などの観点から細かく調査が行われます。
買収監査の結果を踏まえて、最終合意に向けた諸条件や細かい事項を調整します。
ここでようやく譲受価額が正式に決定し、譲受完了日が定まります。
基本合意書の内容をより具体的にしたもので、承継することに対して法的な拘束力が発生する契約書です。記載内容は、譲受の時期や方法など多岐に及びますが、合意事項が具体的に明記されます。
締結後はその記載内容に則り、承継実務を進めていきます。
譲受を検討されている先生が勤務医の場合は、最終契約書の締結をもって職場に退職意向を伝えられる方がほとんどです。
譲受に際し、自己資金だけでは対応できない場合や自己資金を残したい場合は、
金融機関からの資金調達が必要です。実際の開業において必要となる費用は、
大別すると設備投資・運転資金・売買金額(営業権等を含む)の3つです。
特に運転資金については、診療報酬の支払サイトが約2か月であることを踏まえ、
どの程度必要となるのかを事業計画に落とし込んで準備を進めていくことになります。
借入を敬遠される方も中にはいらっしゃいますが、金融機関から資金調達をすることの副次的なメリットとして、実績を作っておくことで将来的に大規模な設備投資や分院展開などの、大きな資金調達が必要な場面において、相談しやすい関係を構築できるという点が挙げられます。
医療機関を承継開業する際は、厚生局に届け出る「保険医療機関指定申請」などの
各行政(厚生局、保健所、法務局、都道府県など)が定める手続きが必要です。
手続きの内容は持分譲渡や事業譲渡(切り離し)、個人開業医の承継など進め方によって異なります。
申請によっては審査に時間がかかることもあり、タイミングを見誤ると開業時期がずれてしまう可能性が
あるため、開業日から逆算して手続きを進めましょう。
行政手続きは医療分野に詳しい行政書士に依頼することも可能です。
譲受後も継続して勤務される従業員は多いです。新規スタッフの採用の手間・費用を抑えることができ、
患者様や地域の医療・介護施設から信頼を得ている既存従業員を維持することで、
円滑に医療サービスを提供することができます。
そのため、譲受後も気持ちよく働くための諸条件のすり合わせはもちろんですが、
事業譲渡や事業承継の場合、従業員との雇用契約の再締結が必要です。
その際、勤務時間・日数や役割、有給等の旧体制からの変化が重要な論点となります。
患者様や取引先、地域のコミュニティーに対しては、事前に開業や譲受について告知を行います。
ステークホルダーにとって経営者が変わることは大きな変化です。
譲受までに丁寧な告知や通知を行うことは、変化の少ないスムーズな承継に繋がります。
また、地域から応援してもらうためにも、譲渡をされる先生からご紹介いただき、
開院の前にご挨拶に伺って地域コミュニティーとの繋がりを持つことも大切です。
クロージングとは、最終契約書に基づいて取引が実行され、譲渡代金の支払い手続き(決済)によって
経営権の移転手続きを完了させる最終手続きのことをいいます。
譲渡をされる先生にとっては育ててきた我が子のような事業を手放す瞬間であり、
譲受をされる先生にとっては新たな門出に立つ瞬間となります。
弊社でご支援させていただいた、承継開業の承継事例をご紹介します。
▷ケース1
<売主様>
・エリア :関西
・業態 :無床診療所
・譲渡形態 :事業譲渡
・診療科目 :外科
・年間売上高:約4,600万円
・譲渡理由 :後継者不在のため
<買手様>
・希望エリア:関西
・業態 :個人開業希望医師
・専門科目 :内科
・開業資金 ;約1,000万円
▷ケース2
<買手様>
・希望エリア:熊本県
・業態 :個人開業医希望医
・専門科目 :整形外科
・開業資金 :約3,000万円
承継開業を希望される先生から、よくある質問をご紹介します。
昨今の上場企業の株価は企業や業種の業績によって二極化してきています。
実はこの事象は株式市場だけではなく、
クリニック(医院)のM&Aにおいても上場企業の株価と同じようなことが起こってきているのです。
具体的には、
小児科や耳鼻科等の国内全体で売上の減少幅が比較的大きい科目のクリニックの買い手人気が低くなっており、安定的な売上が見込める透析や内科などに買収の人気が集まってきているように見受けられます。
とはいえ、
このような状況ながらも長年地域に根差して医療を提供することで、
患者様からの信頼を獲得しているクリニックの経営は、診療科目問わず、変わらず順調です。
外部環境が悪くても、基盤が強いクリニックの経営状況はそう変わることはなく、
承継開業を希望される方にとっては優良案件と見えるものが多くあります。
ここまで承継開業・新規開業のメリット・デメリットや、承継開業の進め方についてご紹介しました。
いつかは開業したいけれど「まだ具体的には考えていない」
そう考えている先生も多いかもしれません。
ただ、理解しておいていただきたいのは、
『アドバイザーへ相談する=承継開業(M&A)を決定する』
ではないということです。
本当の決断は今ではなく、相性のいい譲受先が見つかった時に訪れます。
まずは情報収集を行うくらいの軽い気持ちでアドバイザーにご相談ください。
新規開業は、開業までに多額の資金とお金を必要としながら、
開業してからは、集患に頭を悩ませなければならないというリスクがあります。
一方で、承継開業は、引き継ぐクリニックの経営状況次第では、
新規開業よりも資金が必要になることもありますが、
時間や集患のリスクを最小限に抑えながら独立をすることが可能になります。
リスクが大きく見えることも、冷静に考えてみると、
意外とリスクが低かったりすることが往々にしてあります。
お客様にはリスクとリターンをきちんと助言することを心がけています。
承継開業や第三承継に関して、お悩みがございましたらぜひお気軽にご相談ください。
作成日:2024年2月14日