2025年にはいわゆる「団塊の世代」の方々が75歳となり後期高齢者となる2025年問題が注目を集めています。高齢者の人口が相対的に増加し、老人ホーム事業(有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅等の入居系介護事業を指します)への参入を行う企業が増えています。しかし利用者や施設数が増加する一方で、中小事業者が多く大手中心に優勢劣敗が進み、今後は老人ホーム業界の構造が変化する可能性もあります。ここでは、老人ホームの経営で高収益を上げ事業として成功するためのポイントを解説いたします。
高齢化社会が到来し、また団塊の世代の後期高齢者入りを目前に控える中で、有料老人ホーム事業へ参入する企業が増加しています。
人口減少社会の日本では数少ない成長市場となる介護市場では、有料老人ホームは不動産事業としての側面もあり、比較的安定的な収益が見込めるとされています。有料老人ホームの施設数増加を背景に利用者数も急増しており、平成24年の約31万5千人から令和4年には約54万人となり、10年前に比べると1.7倍以上の増加率になっています。社会福祉法人が運営する公的施設の特別養護老人ホームなどの介護老人福祉施設は、利用者が約61万9千人(令和元年)と各施設の中では最も多い状態にあります。しかし現状のペースでの増加が進めば、近い将来利用者数は有料老人ホームによる逆転が予想されます。
参考資料:
令和4年社会福祉施設等調査の概況高齢者向け住まいについて
有料老人ホームの概況【実態調査】
高齢者人口の増加を背景に、有料老人ホーム事業に参入する企業が増加したものの、事業者間での優勢劣敗も進みつつあります。介護サービスは特別養護老人ホームなど、公的なサービスも存在するため、採算への意識が相対的に薄い事業者も存在します。また高齢者人口の増加が続いているとはいえ、一部地域では有料老人ホームが増加し、入居者獲得競争も激化しています。更に介護職員は慢性的に人手不足の状況にあり、入居者のみならずサービスを提供する介護士等のスタッフ確保も容易ではありません。本状況から有料老人ホーム業界は、高収益の事業者と利益を出せない事業者に大別されつつあります。介護業界は中小事業者が多い業界でもあり、今後は大手など高収益の事業者中心に、業界構造がM&Aなどの活用で変化する可能性もあります。
<介護サービスのM&Aについて以下のコラムでもご紹介しています>
有料老人ホームの主な収入源は下記となります。
入居一時金は入居時の一定期間分の家賃の前払いであり、多くの有料老人ホームで採用されています。各施設毎に平均何年程度その施設に居住するかを想定し決められています。大半の施設は5年分程度ですが、10年以上の施設もあり施設により幅があります。ただし近年では入居一時金をゼロとして、月額利用料のみで利用可能な施設も増加しています。
月額利用料は、居住費(家賃等)・食費・水道光熱費などを居住期間に毎月支払う費用です。ただし入居一時金が高額の施設では月額利用料が抑えられます。老人ホームのコンセプトや建築費用等を含めた利用料設定が必要となります。また、地域の競合調査を行いどの費用帯であれば、利用者を集めることができるのかを含めて事前に計画を立てる必要があります。
一部を除き有料老人ホームは基本的に居住施設との扱いであり、介護サービスは別の事業者が提供する形となります。よって有料老人ホーム単体では介護サービスからの収益を上げることはできません。ただし自社で別途介護サービスを提供する事業者も存在します。尚、行政から特定施設の指定を受けることで、介護付有料老人ホームとして施設サービスと介護サービスの一体提供が可能です。しかし特定施設の指定を受けずとも、外部の介護サービスを受けることができます。
よって有料老人ホームであっても、特定施設と同等のサービスを提供する有料老人ホームも増加しています。
有料老人ホームの主な支出(管理費)は下記があげられます。
有料老人ホームを新規で立ち上げる場合には、もちろん初期費用が発生します。以下が主な初期費用です。
総初期費用は、老人ホームの規模によって異なりますが、数億円~数十億円規模で必要となることが多く、具体的な費用は施設の規模、立地、提供するサービスの内容によって大きく変わるため、詳細な事業計画を立てることが重要です。
老人ホームの経営で利益を出すには、最低限下記を事前に行う必要があります。
老人ホームに限りませんが、新規事業に参入する際は事業計画書の作成が必要不可欠です。主に事業展開に必要な人・モノ・金の面から事業計画書を作成し、実際に利益を上げられるかを事前に検証する必要があります。高い土地を購入して更に高い建築費で施設を建設すれば、施設の損益分岐点は上昇せざるを得ません。その結果、入居率100%でなければ採算が取れない施設なら、その施設の失敗は必然です。事業計画書を作成しても、計画通りに進まないのが事業運営でもあります。バラ色の事業計画書ではなく、現実的な計画書を作成し、その上で継続的な利益計上が可能なのか、十分な検討を行う必要があります。
介護業界は慢性的に人手不足の状態にあります。よって限られた人員でのサービス提供をある程度前提とせざるをえません。そのためには効率的な経営が不可欠です。無理・無駄を減らして効率的なサービス運営を行うことで、利益計上にもつながります。ただし職員に無理をさせる行き過ぎた効率化は逆に効率を下げ、また職員離職のリスクが生じ本末転倒の結果をもたらします。運営側と現場側の密なコミュニケーションを踏まえた上で、業務の効率化を進める必要があります。
3年に一度行われる介護報酬の改定により、事業所の収益は大きな影響を受けます。2024年度(令和6年)の介護報酬改定では『+ 1.59%』の改定となり増額がなされました。内訳としては、介護職員の処遇改善分が「+ 0.98%」、その他の改定率が「+ 0.61%」となっています。プラス改定にはなったものの、物価高騰や人件費が増加していく中で、現状と同等の利益を確保するためには、新たに加算の算定を行うなど柔軟な対応が求められます。
参考資料:出典:「第239回社会保障審議会介護給付費分科会【参考資料1】」
入居希望者には様々な要介護度の方がいます。事業計画書の作成段階で検討すべき事項ですが、同等の要介護度の入居者を集めることで事業の効率的な運営や収益力の向上が可能です。例えば要介護度の低い入居者が多い場合、介護サービスは外部委託が合理的なケースがあります。一方で要介護度の高い入居者が多い場合は、自ら介護サービスを提供することで企業全体としての収益力強化につながることもあります。老人ホーム運営には入居率の上昇が不可欠です。しかし施設をどのような方向性で運営するのか、という点を踏まえた上で、入居者の要介護度に留意する必要があります。
行政から「特定施設入居者生活介護」(特定施設)の指定を受けることで、老人ホームは職員が住宅サービスと介護サービスを一体で提供することが可能となります(住宅型有料老人ホームから介護付有料老人ホームとなる)。住宅型有料老人ホームの場合、収益は入居者が支払う入居費用が中心となります。しかし特定施設(介護付有料老人ホーム)なら、家賃等の収入に加えて介護サービス収入も一体で得ることができます。それにより施設の収益力向上につながります。ただし介護報酬増加に歯止めがかからない中で、行政は特定施設の総量規制を行っており、特定施設の指定取得は容易ではない現実も存在します。
人手不足の介護業界ではICTの活用・業務改革による効率化は今や必須です。介護記録管理、会計管理などのITシステムを導入することで、業務の効率化とミスの削減を図ることができます。例えば利用者のバイタルチェックや見守りなどの業務をICTにより効率化できれば、より質の高いサービスを提供できるでしょう。またICTによる業務負担の軽減は「働きやすい職場づくり」につながり、結果的にスタッフの定着率の向上にも影響を与えるのです。
不動産事業の側面を有する老人ホーム事業は、事業が軌道に乗れば安定的な収益を見込むことができます。また介護サービスの取り組み方次第では、収益力の底上げも可能です。ただし老人ホーム事業は入居者及び介護職員という人を扱う事業であり、不動産事業のイメージのみでの取り組みでは事業は失敗に終わる可能性が高いといえます。経営が軌道に乗れば比較的手堅い事業となる老人ホーム事業ですが、経営を軌道に乗せるためには、介護サービス事業及び不動産事業の両者の観点から、事前に入念な準備が不可欠といえるのではないでしょうか。
そのような状況で、近年M&Aによる介護事業への参入が増えています。
介護事業を新規開設ではなく買収するメリットとして、以下があげられます。
またすでに介護事業を展開している場合では、M&Aによる人材の確保や既存事業とのシナジー効果、事業の大規模化によってブランド力が向上するなどといったメリットがあります。
株式会社CBパートナーズは、株式会社CBホールディングス(旧;株式会社キャリアブレイン)の経営支援情報室として医療・介護・福祉業界に特化した承継問題の解決に取り組んでから10年以上の実績とノウハウがあります。老人ホーム・介護施設の買収・拡大をお考えの際は、ぜひCBパートナーズへお気軽にご相談ください。私たちは貴社のビジョンや目標に共感し、最適な戦略とアプローチを提供し、貴社の成功を全力でサポートいたします。