高齢化社会の到来に伴い、介護付有料老人ホームの増加が続いています。
しかし人手不足などを背景に苦しい経営を余儀なくされる介護付有料老人ホームも存在しており、買収や売却も行われています。
今後も増加が予想される介護付有料老人ホームのM&Aについて、ポイントや留意点、そしてメリットなどを解説いたします。
介護付有料老人ホームとは、各都道府県から介護保険の「特定施設入居者生活介護」の指定を受けている民間施設です。
食事や清掃そして介護サービスまでを施設職員が提供しており、「介護付」「ケア付」の表記がなされています。
また介護・看護職員の配置は、入居者3人に対して介護・看護職員が最低1名と決められています。
入居者は「特定施設入居者生活介護」を利用して、介護サービス計画(ケアプラン)に基づき、入浴・排泄・食事などの介護やその他の日常生活上の世話などが受けられます。
介護サービスは24時間体制で施設の職員が行うため、基本的なサービスはパッケージ化されており、介護保険の限度額を超えて追加料金が発生することはありません。
ただし自らが希望するサービスを別途利用する場合は、自費での負担が必要になってきます。
介護付有料老人ホームのM&Aによる売却を考える際は、下記の2つのポイントがあります。
それぞれ解説していきます。
介護付有料老人ホームは介護事業ながら、不動産事業としての側面もあります。
しかし、この不動産事業としての側面もあることから、他の介護サービスに比べて事業として安定性を有する一面もあります。
不動産事業では空室率が物件の採算に大きな影響を与えます。
高齢者向け住宅施設では、一般的に入居率が70%を下回ると経営が厳しくなるといわれます。
また一般的な賃貸物件の経営では空室率20~30%が限度といわれており、介護付有料老人ホームも概ね同レベルの空室率が損益分岐点です。
施設により若干数字は上下しますが、慢性的に入居率が70%を下回る状態が続けば、資金不足によりいずれ事業が立ちいかなく可能性が高いといわざるをえません。
損益分岐点を下回る入居率が続き、自力で入居率改善の見込みもないようなら、早めに事業売却などの決断を行う必要があります。
高齢化社会の進展により、国内全体で慢性的な人手不足の状態にあります。
その中でも介護業界は高齢者が増加の一方、人手不足が最も顕著な業界の1つです。
よって人手不足は介護事業者の大きな悩みとなっています。
入居者の確保ができても、介護職員の確保ができなければ、そもそもサービスの提供ができないからです。
介護付有料老人ホームの入居者3人に対して介護・看護職員が最低1名という最低限の人員配置についても、24時間体制のサービス下では、職員のギリギリのローテーションで回している施設も存在します。
国内全体が人手不足の状態であり、中小事業者が単独で介護人材不足をカバーするには限界もあります。
よって事業売却により資本力及び人的資本に余裕のある大手事業者の傘下に入ることは、慢性的な人手不足解消の有力な選択肢となります。
介護付き有料老人ホームのM&Aを検討しているなら、現状についても把握しておく必要があります。
主に把握していただきたいのは、以下の3点です。
それぞれの項目を詳しく解説していきます。
介護報酬は3年に1回のペースで改定が行われています。
2018年度(平成30年度)は+0.54%の改定が行われました。
ただし2015年度(平成27年度)は▲2.27%の改定がなされており、増えるばかりではありません。
2019年10月に消費税10%への増税は行われたものの、高齢化の進展による社会保険料の増大が続いており、国の財政事情は厳しい状態が続いています。
よって今後も介護報酬の一本調子での伸びは期待できません。
介護事業者の経営の根幹をなす介護報酬は、3年に1度の改定の影響を大きく受けざるをえないといえます。
参考資料:
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000196991.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000081007.pdf
介護業界は高齢化社会到来による人手不足の影響を最も受けている業界の1つです。
今後団塊の世代の後期高齢者入りを目前にしており、介護人材の不足感が更に強まる可能性もあります。
海外人材の受け入れ制度も開始されましたが、問題の本質的な解決につなげるには難しい状況にあります。
ギリギリの人員配置でサービス運営をする介護事業者も多い中、今後更に介護人材の不足が深刻化する可能性があります。
政府は介護報酬の改定をマイナスにするなどして、介護給付費抑制の試みも行っています。しかし高齢者の絶対数の増加により、介護給付費の膨張が止められない状態にあります。
介護サービスは介護保険により維持されています。
しかし介護保険は2000年にスタートした比較的新しい制度であり、医療保険に比べると過去のいわゆる貯金が少ない状態にあります。
今後も介護給付費増加が予想される中で、現在の介護保険制度の維持が困難となれば、介護事業者にとって大きな影響が生じざるをえません。
介護付有料老人ホームの現状は厳しいものですが、だからこそM&Aを行うことにメリットがあります。
ここでは、買い手側と売り手側それぞれのメリットを見ていきましょう。
介護付有料老人ホーム事業は不動産事業の側面もあるため、規模の拡大による収益力の強化が比較的行いやすい事業です。
よって買い手側企業としてはM&Aにより自社グループの施設を増やすことは、グループの規模拡大による経営基盤の強化につながります。
また自社の既存施設の隣接地域であれば、人材の再配置により効率的な施設運営につなげることもできます。
特に入居者が損益分岐点を超える施設の買収は、買い手側企業にとって早期に規模拡大のメリットが出し易いといえます。
中小の介護付有料老人ホーム事業者の多くは、慢性的な人手不足の状態にあります。
事業売却により大手企業の傘下に入ることで、人員に余裕のある大手企業から人員派遣を受け、人手不足の解消が可能になる場合があります。
また大手の運営ノウハウ導入は、効率的な施設運営にもつながります。
一方で経営が苦しい施設の場合は、施設の売却により経営不安から脱することが可能です。ただし価格面では不利にならざるを得ません。
尚、事業多角化により介護付有料老人ホーム事業に進出した企業では、同事業が赤字の状態であれば、事業売却により区切りをつけて新しい事業展開を行うこともできます。
ここまで、介護付き有料老人ホームをM&Aする場合に知っておきたい情報をまとめて解説してきました。
介護事業には介護保険が絡んでおり、通常の企業のM&Aとは異なり介護保険の知識や行政との折衝も必要となっていましたね。
また、介護付有料老人ホームは不動産事業の側面も有しており、M&Aの成功には不動産事業の観点からの検討も必要になります。
特に買収側は、買収後に買収した企業や施設の運営をスムーズに行うための入念な準備をしなくてはなりません。
そのため、介護付有料老人ホームのM&Aを検討する際は、専門知識及び経験豊富なパートナーを選ぶことをおすすめします。
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介護付有料老人ホームのM&Aを検討する際は、ぜひご相談くださいませ。