介護保険が関係する訪問介護事業者のM&Aには、通常の企業間M&Aと同様のポイントに加え、独特のポイントも存在します。
訪問介護事業者のM&Aを行う際に押さえるべき、各ポイントについて解説いたします。
訪問介護事業者のM&Aを行う際のポイントは多岐に渡ります。まずはその内容を列挙します。
以下で順次、その詳細を解説いたします。
訪問介護事業を行うためには介護保険の給付が不可欠であり、
介護保険の給付を受けるためには行政から介護サービス事業者として指定を受ける必要があります。
M&Aの結果、指定が取り消されるような事態となれば、M&Aは全く意味をなしません。
既に介護サービス事業者として指定を受けている法人の株式譲渡の場合は、
単に株主が移動するだけであり、介護事業者としての指定は問題なく引継ぎが可能です。
しかし企業再編などを行い別法人となる場合は、別途指定を受ける必要が生じるケースもあります。
訪問介護事業者のM&Aでは、買収側・売却側の基本合意がなされた後、
速やかに行政に今後の手続きなどを相談する必要があります。
M&Aの際、買収側は売却側の下記の点を評価します。
これらについて、詳しく解説していきます。
買収側が訪問介護事業者のM&Aを検討する際は、経営状況即ち利益が出ているかどうか、という点が最初に注目されます。
黒字なのか赤字なのか、黒字であればどの程度の利益及び利益率なのか、赤字ならそれは黒字化可能なレベルなのか、また赤字の期間や赤字の原因など、損益計算書をベースに買収側は買収候補のデューデリジェンス(調査や分析)を行います。
買収側は買収候補の損益計算書だけでなく、貸借対照表にも注目します。
直近の決算が黒字の企業であっても、過去の赤字で資産内容が悪化している企業は多くあります。
また事業規模に比べ借入金が多くないか、資産は適正に評価されているか等、様々な注目点があります。
当然、貸借対照表そのものの信頼性も評価の対象となるため、粉飾決算の疑いがあれば、その評価は著しく低くなります。
M&Aの売却側は、売却理由を明確にする必要があります。
事業承継のため、今後の経営に対する不安等、売却には単独の理由のみならず複合的な理由の場合もあるからです。
また、M&Aの交渉では、売却金額・従業員の雇用など、売却側は最終的に何を優先するか判断を迫られる場面も少なくありません。
売却理由を明確にすることで、軸をずらすことなく買収側との交渉が可能であり、また買収側からの譲歩も引き出しやすくなります。
M&Aの場合に限らず、企業経営者の重要な役割の1つは従業員の雇用を守ることです。
よってM&A時には、経営者は従業員の雇用に最大限配慮する必要があります。
介護業界は人手不足の状態にあり、有資格者などを囲い込むためにM&Aを行う、という側面もあります。
よって買収側も売却側従業員の雇用継続や待遇改善について、柔軟なスタンスを取るケースが多いといえます。
M&Aに際し売却側は、準備を早めに行う必要があります。
売却側は様々な事情から企業売却の決断を行います。
また、時間の経過とともに状況が悪化するケースもあります。
特に赤字企業の場合、決断の遅れは企業評価の低下に直結します。
売却を決断した後は売却に向けた準備を早めに行うことで、スムーズな売却につながるだけではなく、売却側にとって有利な条件での売却となる可能性があります。
M&A時に売却側が最低限押さえるべき点は、下記があげられます。
それぞれおさえる点について、詳しくみていきましょう。
M&Aにおいて重要視されるのは売却金額です。
例えば売却側が売却希望額を1億円とした場合でも、買収側が1000万円の価値しか認めなければ、買収に向けた合意はほぼ不可能です。
売却希望金額と実際の売却可能額について、大きな差が生じているなら売却希望額や相手の再考が必要です。
M&Aはタイミングが非常に重要です。
苦しい経営状態の会社でも一時的に事業環境が好転するタイミングがあれば、企業売却が予想以上の金額で進む場合もあります。
企業売却を決断したのであれば、適切なタイミングを逃すことなく売却を進めるべきです。時には多少条件面で妥協しても、売却のタイミングを優先すべき場面もあります。
M&Aでは多くの場合、買収側は対価として現金を支払います。
しかし上場会社では、対価を現金ではなく自社株式で支払うケースがあります。
また現金の場合でも、一括払いではなく分割で支払うケースもあります。
売却側としてはM&Aが成立した後、どのような形で売却の対価を受け取るか、という最終的な決済方法についても注意が必要です。
現金一括での支払いであれば入金タイミング、株式の交付や現金でも分割支払いの場合は、最終的にどのタイミングで資金が全額回収できるのかを確認する必要があります。
買収側から売却側の訪問介護事業を見ることで、人員は最適に配置されているか、という点を客観的に検証できます。
長年に渡るオペレーションの結果、人員配置がいびつになっているケースもあります。
企業買収は、客観的で合理的な人員配置を行う契機にもなります。
また人員配置の最適化により、生産性の向上がどの程度なされるかなども、買収検討の段階で十分な検討が必要です。
有利に働くスキームという観点では、買収側及び売却側で別々の視点が存在します。
買収側は金額を抑えて買収したいと希望するのに反し、売却側は高い金額での売却を希望します。
しかしお互いの希望のためとはいえ、少なくとも税務上や法律(対行政含む)のリスクは取るべきではありません。
介護保険が関係する介護事業者のM&Aでは、介護保険の給付を受けられない可能性のある企業再編スキームは、いくら買収側・売却側にメリットがあっても採用すべきではありません。
訪問介護サービスの企業が他社に売却されることで、利用者はサービスの内容や質の低下が生じるのではないか、という不安が生じます。
そのようなことが起きないために、売却が決定した後は利用者に対し、今後のサービス方針などの丁寧な説明が必要です。
担当介護士からの説明のみならず、場合によっては責任ある立場の者による説明が、利用者の安心につながるケースもあります。
買収側は、企業買収後の事業計画の作成が必要不可欠です。
事業計画は市場環境を踏まえ、無理のない内容で作成する必要があります。
市場規模100億円のマーケットで、中小企業がいきなり50億円以上の売上を目指すことは客観的には不可能です。
客観的な市場規模や業界内でのポジションを踏まえた上で、事業計画の作成が求められます。
無理な事業計画に基づき買収先企業の経営を行うことで、現場が疲弊して買収以前の事業規模の維持すら困難となれば、M&Aは失敗に終わります。
M&Aを契機とする事業拡大への期待感を持ちつつも、現実的な視点も忘れてはなりません。
前述の事業計画の作成にも関係しますが、事業計画の作成を行うことで買収後の企業の将来価値の予測ができます。
これにより買収の際に、どの程度の金額まで買収に投じることができるのか、という計算もできます。
一方で実現のハードルが高い事業計画を立案すれば、高い企業価値の算出がなされて、高い金額での買収も可能です。
しかし実際の買収後に事業計画が未達となり、逆に割高な買い物となる可能性もあります。
買収後の将来価値の予測は、事業計画作成とセットで考える必要があります。
介護保険が関係する介護事業者のM&Aには行政との折衝や説明等、民間企業同士のM&Aとは異なる手続きも生じます。
また介護事業者の企業評価、買収スキーム、M&Aにともなう事業計画書の作成などの場面では、介護事業専門のM&Aアドバイザーのアドバイスを受けることで、スムーズな手続きが可能です。
訪問介護事業者のM&Aを検討の際は、手続きをスムーズに進めるために、介護事業専門のM&Aアドバイザーにまずは相談することがおすすめです。
業界を熟知した適切なアドバイスを受けた上で、M&Aを検討してはいかがでしょうか?