介護の世界では、2025年問題について避けては通れません。
2025年、日本における65歳以上の高齢者は3,600万人にものぼり、
全人口の3人に1人が高齢者という構図になるというものです。
介護事業は高齢者の動向そのものが収益に直結しますので、
事業者の皆様も注目なさっている方は多いかと存じます。
今回は、2025年より先を見据える必要もあるのでは、という話です。
まずは下図をご覧ください。
65歳以上の高齢者1人を、働く世代(20~64歳)で
何人で支えているかの年代別推移を図で示すものです。
1965年「胴上げ型」:65歳以上1人に対し、20~64歳は9.1人
2012年「騎馬戦型」:65歳以上1人に対し、20~64歳は2.4人
2050年「肩車型」 :65歳以上1人に対し、20~64歳は1.2人(推計)
驚くことに、2050年頃には「1人の若者が1人の高齢者を支える」
極めて厳しい社会が訪れることを厚生労働省は予測しています。
(出所)厚生労働省「 今後の高齢者人口の見通し 」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」
2025年問題が介護業界に与える影響は、次のとおりです。
2025年問題により深刻になるのは、介護財源の圧迫です。
要介護者が増えるほどに介護サービスの利用者数が増えるため、
介護保険の保険給付も増えます。
財務省のデータによると、
2015年が約119.8兆円だったことを考えると、
さらに、
特に医療・介護分野の支出の増加が目立ちます。
75歳以上の後期高齢者には、介護を必要とする人が多く、
厚生労働省の調査によれば、実に約690万の人が要介護(要支援)
また、認知症患者数の増加も深刻です。
2025年には65歳以上の認知症患者数は約700万人にまで増
高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。
※(出所)厚生労働省「介護保険制度をめぐる最近の動向について」
要介護高齢者が増加するにも関わらず介護人材が不足することで、
介護施設や介護事業所で必要なときに介護サービスが受けられない
介護が必要な高齢者に対して、
今後の高齢者数の増加に伴って必要とされる介護職員数は2025
2040年には約280万人と推計されています。
少子化によって労働人口が減少している日本にとって
人材の確保は重大な課題と言えます。
第8期介護保険事業計画では、2025年度には約243万人(+約32万人)の介護職員が必要と言われており、国は総合的な介護人材の確保対策として以下のような対策に取り組むとしています。
(出所)厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について(令和3年7月9日)」別紙1より
これに対応するため、介護施設自体も体制構築が必要です。
具体的にはどんな対応が求められるのでしょうか。
・人事制度の再構築
処遇改善や多様な人材の確保・育成、離職防止のためには、既存の人事制度では対応しきれないことも起きてくるでしょう。人事制度構築には短くとも半年はかかります。早めに対策を打っていくことが求められます。
・ICTの導入
2024年度の介護報酬改定でもBCP(事業継続計画)やLIFE(情報共有システム)の有効活用に関する議論が行われていますが、これからはICTの活用が不可欠になるでしょう。
・事業承継やM&Aの活発化
人事制度の再構築やICTの導入には、あらゆるコストがかかります。光熱費・人件費などのコストが増加する一方で価格転嫁できない介護事業において、既存の施設運営だけでは、人事制度の再構築、ICT導入にまでコストをかけることは容易なことではありません。必然的に、事業承継、M&Aは活発化していくものと考えます。
介護施設の永続性というマクロの観点で見た場合には、もはや2025年問題だけを意識していれば良いわけでなく、遠い先にも思える2050年も見据えていく必要があります。
2050年と聞くと現実味がありませんが、足元での国の施策は少しずつではありますが、着実に進行しているのです。社会保障費が抑制されれば、サービス利用者減少は自明であり、ひいては介護事業者の淘汰も始まってくるわけです。
この介護報酬に翻弄され過ぎないためにも、介護事業者自身が「拡大(≒買収)」か「縮小(≒売却)」いずれかを選択しなければならない時期に差し迫っています。また、将来的な介護保険の自己負担割合増加に伴って、介護保険サービスと、いわゆる自費サービスの価格差は急激に縮小していくものであろうと私は考えています。
自費サービスを展開するために周辺の介護報酬事業を買収する、という考えを持つ法人も今後増えてくるのではないでしょうか。このように、企業の永続性を考える上でも介護事業におけるM&Aの有効性を感じる場面が増えてきたことを実感しています。