近年、介護業界では倒産件数が増加している一方で、新規参入も増えています。
このような厳しい経営環境の中で、事業の安定化や成長を目指すために、M&A(合併・買収)が重要な選択肢として浮上しています。
本コラムでは、介護施設のM&Aを検討する際、どこに相談すべきか、そのポイントやメリット、相談先の選び方について解説いたします。
2024年は介護事業者の倒産件数が過去最多を更新しました。倒産件数増加の背景として以下が挙げられています。
深刻な介護人材の不足
基本報酬のマイナス改定による収益圧迫
物価高騰に伴う人件費・光熱費の上昇
コロナ禍で悪化した経営基盤の未回復
2025年は物価高騰の継続が想定されているため、さらに倒産件数が増えるのではないかといわれています。
一方で、65歳以上の人口が総人口の29.3%を占める超高齢化社会において、介護サービスの需要は拡大を続けており、新規参入事業者は5年連続で増加傾向にあります。事業者間の競争激化は避けられない状況といえます。
こうした環境下で、介護業界ではM&Aが重要な経営戦略として注目されています。売却側・買収側それぞれで、M&Aを検討する理由は主に以下が挙げられます。
経営者の高齢化・体調不良
後継者不在(経営承継が必要な中小企業の半数以上が未対策)
単独での事業継続困難(人材確保・報酬改定対応の限界)
地域展開の効率化(ドミナント戦略)
介護保険制度の改正による、リスク分散
人材の確保(特に資格保有者)
異業種参入企業の事業ポートフォリオ拡大
ではM&Aを検討する際、どこに相談すればよいのかというと、大きくは以下の4つが挙げられます。
M&Aに関する専門性 | 費用 | 対象規模 | 強み | |
---|---|---|---|---|
M&A仲介会社 | 成功報酬、着手金、中間金など | 中~大規模 | 豊富なノウハウ | |
会計士・税理士 | 成功報酬、着手金、中間金など | 財務・税務専門 | ||
銀行など金融機関 | 成功報酬、着手金、中間金など | 全規模 | 資金調達一体 | |
事業承継・ | 無料 | 小~中規模 | 公的支援 |
※費用についてはあくまで一般的なもので、各社によって異なります。
M&A仲介会社は、売手・買手双方のマッチングからクロージングまで一貫して支援する専門機関です。
主な業務として、企業価値評価、買い手のリストの作成、条件交渉(価格・M&A後の役員処遇等)を実施します。一般的にM&A仲介会社に支払う報酬で多いケースは、「成功報酬型(レーマン方式)」または「着手金型」です。M&A仲介会社以外の、相談先は特定領域に特化しているのに対し、M&A仲介会社は「M&A成立」という目的に対して総合的なソリューションを提供する唯一の存在です。
なお、M&A仲介会社とは異なり、売手・買手のいずれか片方と契約し、M&Aを支援する専門家のことをファイナンシャルアドバイザー(FA)といいます。買手・売手両方のメリットを最大化させる仲介会社とはまた違う立場で支援を行います。
公認会計士や税理士といった会計専門家は、財務デューデリジェンスや税務戦略構築で重要な役割を果たします。特に介護報酬算定の適正性チェックや固定資産税の優遇措置活用のアドバイスが可能でしょう。M&Aの経験が豊富な士業事務所であれば、事業承継税制の適用支援や、のれん償却の最適化提案も行います。報酬体系は時間制か固定報酬制が主流で、中小規模案件を得意とする傾向があります。
地域金融機関は融資とアドバイザリーを組み合わせた支援が特徴です。施設改修資金や運転資金の調達と並行して、地域の介護事業者ネットワークを活用した買い手紹介を行います。メガバンクでは、介護業界専門のM&Aチームを設置し、大規模案件ではFAとしてかかわるケースが多いです。
買収資金の融資執行
債権管理(既存融資の条件変更協議)
地域密着型マッチング(地銀の営業ネットワーク活用)
「事業承継・引継ぎ支援センター」は47都道府県に設置され、国が運営している公的機関で、無料相談が最大の強みです。特に10億円未満の中小介護事業者向けに、事業譲渡ガイドラインの提供や後継者候補のデータベース検索を実施します。
M&Aを自力で行うことも可能ではありますが、専門知識や経験が不足している場合、トラブルに巻き込まれるリスクが高まります。したがって、専門家の助言を受けながら進めることが、成功の鍵となります。
特に、介護業界に特化したM&A仲介会社や法律、財務の専門家との連携を強化することで、よりスムーズで安全なM&Aプロセスを実現できるでしょう。
専門家を活用するメリットとしては以下が挙げられます。
では先ほど紹介した、4つの相談先についてそれぞれのメリットを解説します。
M&A仲介会社は、企業の買収や合併を支援する専門業者であり、譲渡企業と譲受企業の間に立って中立的な立場からM&Aの成立をサポートします。主なメリットは以下があります。
専門知識と経験
M&A仲介会社は、法務、会計、税務などのM&Aに関する専門知識を持ち、複雑な手続きも円滑に進めることができます。
ネットワークの活用
過去の成約事例や広範囲なネットワークを活用して、同業の有力企業に限らず、異業種やベンチャー企業等を含めて、最適な相手を提案することが可能です。
時間と労力の軽減
M&Aの進行を専門家がサポートすることで、通常業務に支障をきたすことなく、効率的に手続きを進めることができます。
公認会計士と税理士は、企業の財務や税務に関する専門家ですが、それぞれの役割には違いがあります。
・公認会計士: 主に企業の財務諸表の監査を行い、企業の財務状況を客観的に評価します。これにより、投資家や取引先に対して信頼性を提供します。
・税理士: 税務に特化しており、企業が適切に税務申告を行えるよう支援します。税務に関する深い知識を活かし、節税対策や税務調査への対応を行います。主なメリットには以下が含まれます。
銀行などの金融機関は、企業の資金調達の支援や融資を行う重要な役割を担っています。また資金運用や投資戦略に関するアドバイスを行い、企業の成長をサポートします。
各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継を支援する国が運営している公的機関です。後継者不在の企業と譲受希望者とのマッチングを行い、円滑な事業承継を促進します。また経営者に対して事業承継に関する専門的なアドバイスを提供します。主なメリットは以下があります。
介護施設のM&Aや事業承継において、適切な相談先を選ぶことはM&A成功のカギとなります。
専門性、料金体系、評判、相談のしやすさなどを考慮し、自社に最適な相談先を見つけることが重要です。信頼できる専門家のサポートを受けることで、スムーズなM&Aが実現できるでしょう。
介護業界は報酬改定や法改正などほかの業種と比べて特殊性が高い業界です。そのため業界に特化したM&A仲介会社やコンサルタントを選ぶことが重要です。税理士事務所や銀行では業界に特化したM&A専門チームを設置している場合もあります。
業界特有の知識や経験が豊富な専門家であれば、適切なアドバイスを提供してくれ、やり取りもスムーズに行うことができます。ホームページ等で過去の成功事例や実績を確認し、介護業界でのM&A実績が豊富な会社を選ぶことをおすすめします。
自社のニーズやM&Aを実施する目標を明確にし、それに合った相談先を選ぶことが重要です。何を解決したいのか、どのようなサポートが必要なのかを具体的に考え、相談先に伝えることで、より適切なアドバイスを受けやすくなります。
料金体系は企業によって多種多様です。相談先の料金体系を事前に確認し、納得できるプランを選ぶことが重要です。成功報酬型や月額プランなど、さまざまな料金体系があるため、自社の状況に合ったものを選びましょう。またその際に、料金が明確で追加費用が発生しないかどうか確認することも大切です。
評判や口コミを調べることで、その専門家の信頼性や実績を確認できます。特に、実際にM&Aをした経営者からのフィードバックは参考になります。また買い手を探す際のネットワークの広さも重要です。多くの企業とつながりがある専門家は、より多くの選択肢を提供できる可能性があります。
M&Aプロセスの基本的な流れは、相談先によって大きく変わることはありませんが、先述の通りそれぞれの専門家が持つ役割や提供するサービスには違いがあります。
M&A仲介会社は交渉の中心となり、公認会計士や税理士は財務面のサポート、銀行は資金調達、事業承継・引継ぎ支援センターは中立的なアドバイスを提供します。各相談先の特性を理解し、自社のニーズに合ったサポートを受けることをおすすめします。
ではM&Aの基本的な流れについて解説します。そのプロセスは複雑で多岐にわたりますが、主には以下の4つの段階に分かれます。
まずは専門家へ相談する前に、M&Aを行う目的や方向性を明確にしましょう。買収目的であれば、例えば、市場シェアの拡大や新規市場への進出、技術の獲得などが考えられます。次に、自社の強みと弱みを分析し、どのような企業と提携するのが最適かを判断する基準を設けます。
その後、M&A仲介会社や公認会計士、税理士などの専門家に相談し、専門的な知識を活用してM&A戦略を立てます。これにより、より具体的で実行可能な計画を策定することができます。
まず、自社の戦略や目標に合致する候補先となる企業を選定し、接触を開始します。この段階では、事業の成長戦略や市場拡大を目指すための最適なパートナーを見つけることが重要です。
専門家や買い手側との初期の情報交換に際しては、秘密保持契約(NDA)を締結します。これにより、双方の機密情報が外部に漏れるリスクを防ぎ、安心して交渉を進めることができます。また、NDAによって情報の取り扱いが明確になり、信頼関係を築くことができます。
その後、買手候補先とTOP面談を実施し、双方のビジョンや目的を共有します。この面談を通じて、事業承継や成長の方向性が一致しているかを確認し、信頼関係を深めます。面談後、基本合意書(LOI)を締結し、M&Aに関する基本的な条件を合意します。LOIでは、取引の範囲、価格、支払い条件、譲渡後の経営体制など、M&Aの枠組みが確認されます。この段階で合意された内容が、後の詳細な交渉や契約書作成の基盤となります。
その後、買い手側は売り手企業の財務状況、法務面、運営体制などを詳細に調査する「デューデリジェンス」を実施します。デューデリジェンスは非常に重要なプロセスで、売り手企業の実態を明らかにし、潜在的なリスクや問題点を浮き彫りにします。これにより、買い手は取引のリスクを適切に評価し、取引価格の見直しや契約条件の調整が行われることもあります。デューデリジェンスの結果に基づいて、交渉が進み、最終的な契約内容が決まるため、このプロセスはM&Aの成功に大きく影響します。
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な条件について交渉を行います。デューデリジェンスで得られた情報を基に、最終的な条件を調整します。すべての条件が合意に達したら、最終契約を締結します。この契約には、取引の詳細や条件が明記され、法的拘束力を持ちます。
契約内容に基づいて、実際の取引を完了させます。これには、資金の移動や株式の譲渡などが含まれます。
M&A完了後、買収企業との統合が始まります。この段階では、組織文化の融合と業務プロセスの調整が重要です。異なる文化を持つ企業が一つになるため、相互理解を深め、共通の目標を共有することが求められます。従業員同士の交流やコミュニケーションを強化し、組織の一体感を高める努力が必要になります。
また、業務プロセスやITシステムについても統合を進め、効率的な運営を目指します。無駄を省き、スムーズな運営を実現するための調整が行われます。
統合後は、従業員や取引先に適切な情報提供を行い、信頼関係を維持します。透明性を持って適時・適切に情報を提供し、関係者の理解と安心を得ることが重要です。
本コラムでは介護施設のM&Aを検討する際の、相談先の選択肢をご紹介しました。
当社CBパートナーズは介護業界に特化したM&A仲介会社として、介護事業者様のニーズに最適なサポートを提供しています。業界に精通した専門家が、複雑なM&Aプロセスをスムーズに進めるためのアドバイスを行い、売却・買収の成功をサポートいたします。
ぜひ、M&Aを検討される際には、相談先の選択肢として当社までお問い合わせください。事業承継や成長戦略の実現を全力でサポートいたします。
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