介護施設のM&Aは、経営者が高齢化し後継者が不在であることや、人材確保の困難さ、市場の成長性などから、近年増加傾向にあります。
しかし、M&Aにはリスクも伴います。悪質なM&A仲介会社によるトラブルや、契約条件の不透明さなどにも注意が必要です。このコラムでは、介護施設のM&Aにおいて注意すべきリスクとその対策について説明し、さらにM&Aのメリットを活かして事業を成功させるための準備方法も紹介します。
介護施設におけるM&Aが増加している背景には、以下のような要因があります。
介護保険制度が開始した2000年から20年以上が経過した現在、介護施設の経営者も高齢化が進んでいます。2000年前後に介護事業を開業された方のご年齢が50歳だった場合、2025年時点で75歳となるため、特に中小規模の事業所で、後継者不在に悩む経営者が増えています。
介護関係の職種の有効求人倍率は、全職業の有効求人倍率に比べ高くなっています。この慢性的な人材不足は介護業界の大きな課題となっており、人材確保を目的とするM&Aが増加しています。
高齢社会に突入し、介護事業は2040年まで市場規模の拡大が見込める成長産業といわれています。そのため、異業種からの新規参入も少なくありません。しかしゼロから人材を採用・育成するには時間もお金もかかるだけでなく、総量規制が導入されている介護付き有料老人ホームのように新規開設が難しい介護施設もあるため、新規参入においてM&Aを行うことが多くなっています。
買収した施設やサービスは、既存の事業とのシナジー効果を生み出します。設備の共有や運営コストの削減などが実現でき、経営効率が向上します。
特に2015年以降は介護報酬改定でのマイナス改定や新型コロナウイルスが経営に直接響き、事業所の廃業・倒産件数が増加するとともに、M&A件数も増加傾向となりました。
これらの要因により、介護施設におけるM&Aは今後も増加傾向が続くと予想されます。
介護事業所がM&Aを行う際には、許認可や行政の届け出が必要になります。これらの手続きは複雑で時間がかかる可能性があり、M&Aの進行に影響を与える可能性があります。
介護報酬は3年ごとに改正があります。マイナス改定の際には介護業界の業績は大きく影響を受けます。M&Aを検討する企業は、この報酬改定のタイミングを見計らって実行することが多いです。
経営主体が変わることで従業員のモチベーションに変化が起きる可能性もあります。場合によっては従業員が不安になって一斉退職などに繋がることもあるので、慎重にフォローすることが必要です。
買収後に隠れていた問題が発覚することがあります。特に注意が必要なのは、簿外負債や行政指導になりかねないような勤務体制で運営が行われている場合です。デューデリジェンスをしたところ簿外負債や現場の体制などのリスクが発覚し、最悪の場合M&A自体が白紙となる可能性もあります。
老人ホーム業界は過当競争にさらされていて、施設を持っているからといって必ずしも収益を上げることができるとは限りません。過当競争は、今後より一層激しくなると想定しておく必要があります。
近年、M&Aトラブルが急増しています。介護業界の話ではありませんが、昨年大きな問題となったのが、悪質な買い手企業が買収後すぐに売り手企業の資金を吸い上げ、経営に関与せず放置するなどの行為を繰り返し、従業員への給与支払いや取引先への支払い、借入金返済などが滞ったのち倒産に追いやられるという事件です。なかでも問題視されたのが、M&A仲介会社が買い手企業の財務状況や経営方針などを十分に審査せず、問題があることを知っていながら、売り手へ紹介していたという点です。
このようなトラブルは、多くのM&A仲介会社が成功報酬型のビジネスモデルを採用していることも影響しています。このモデルでは取引が成立しなければ報酬を得られないため、一部の仲介会社では、クライアント企業(売り手と買い手の双方)の最善の利益を十分に考慮せず、取引の成立を過度に優先する傾向があります。成功報酬を得ることを最優先する仲介会社が、M&Aトラブルが増加する原因となっていると考えられます。
M&A仲介会社と契約を結ぶ際は、特約条項を含むすべての契約内容を慎重に確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
介護事業者を対象とした悪質なM&Aの事例も報告されています。この事例では、買収後に資金が搾取され、介護施設の運営に深刻な影響が出ました。具体的には、ある老人ホームを運営していた会社とデイサービス施設を運営していた合同会社が被害に遭い、全員退去の施設も出る事態となりました。
中小企業庁は、増加するM&Aトラブルに対応するために、2024年8月に中小M&Aガイドラインを改定しました。
「中小M&Aガイドライン」とは中小企業庁が2020年3月に策定したもので、後継者が不在の中小企業とM&Aの支援機関を対象としたM&Aに関する指針です。介護事業におけるM&Aでもこのガイドラインの方針が適用されます。
このガイドラインは、M&Aに関する知識や経験が不足している中小企業経営者に対して、M&Aを適切に進めるための手引きを提供することを目的としています。また、M&A支援機関に対しても、支援の質を均質化するための基本事項を示しています。
2024年8月の改訂では、仲介会社・FAに対する規制の強化、顧客への情報提供の透明性が求められました。背景として以前から中小企業の事業承継を狙った悪質な営業行為が問題視されており、強引な営業や法外な手数料の請求など、仲介業者によるトラブルが相次いでいたことから、これらの行為を排除するため、M&A仲介会社・FAに対して規制の項目が目立ちました。
ガイドラインの改訂は、今後も市場の状況や中小企業のニーズに応じて行われます。
経営者にとって、信頼できる仲介会社を選ぶことは、事業の継続と成長に直結する重要な要素です。加えて、M&Aに関する知識や情報が不足していることもトラブルを招く要因となります。経営者自身がM&Aのプロセスやリスクについて学び、仲介会社からの情報を鵜呑みにせず、客観的な視点で判断することが求められます。
また、情報の非対称性をなくすためには、事前に十分なリサーチを行い、依頼を検討している仲介会社の過去の事例を参考にすることも重要です。譲渡の際は自身の求める条件を明確にし、仲介会社と信頼関係を構築することで、より良い取引が実現されます。
また、信頼できるM&A仲介会社を選定するポイントとして、「中小M&Aガイドライン」を遵守しているかどうかを確認するほか、以下のようなポイントを押さえておくと良いでしょう。
M&A支援機関登録制度は、中小企業庁が中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために設けた制度です。この制度では、信頼できるM&A仲介会社やFAなどを中小企業庁が認定し登録します。
信頼できる仲介会社を選ぶためには、「M&A支援機関に係る登録制度」に登録されているかを確認することも重要です。この制度に登録されている仲介会社は、一定の基準を満たしており、信頼性が高いとされています。登録の有無は、公式サイトや関連機関で確認することができます。
★M&A支援機関登録制度の公式サイトの「登録支援期間データベース」から確認いただけます。
さらに、登録されているかどうかだけでなく、その仲介会社が過去にどのようなM&Aを手掛けてきたのか、成功事例や顧客の評価も参考にすることで、より信頼性の高い選択が可能になります。
アドバイザリー契約とは、M&Aの成立に向けた専門的な知識や経験に基づく助言やサポートを受けるために、企業とM&A専門家が結ぶ業務委託契約の一種です。この契約は、M&Aプロセス全体を通じて、企業価値評価、買収監査(デューデリジェンス)、交渉支援、契約書の作成など、多岐にわたる業務をカバーします。
契約を結ぶ前には、仲介会社が提供する資料や契約内容を十分に確認しましょう。特に、手数料の内訳や契約解除の条件については、詳細に把握しておくことが重要です。また、過去の実績や顧客の評価を参考にし、仲介会社の信頼性を総合的に判断することが求められます。さらに、契約書に記載されている条件が実際に履行されるのかを確認するために、第三者の専門家の意見を求めることも有効です。
アドバイザリー契約を結ぶ際のポイントは以下の通りです。
また一部のM&A仲介会社では、顧客の理解や同意が不十分な状態で、強引に専属契約を結ぼうとするケースがあるようです。専属契約を結ぶと、他の仲介会社やアドバイザーと契約することができません。契約を解除したい場合でも、専属契約は解除が難しいことがあり、契約期間中に解除するには、契約書に記載された特定の条件を満たす必要があります。したがって、契約書に記載された解除条件や通知期間を慎重に確認することが非常に重要です。
M&Aトラブルに巻き込まれないよう仲介会社の選定に注意すると同時に、介護施設のM&A後に発生しうるリスクとその対策方法(売り手側目線)についても理解しておく必要があります。
M&Aを成功させるためには、まず自社の事業の現状を正確に分析し、明確な目標を設定することが不可欠です。これにより、自社の強みや改善点を把握し、買い手や売り手に対して適切なアピールができるようになります。
具体的には自社の財務状況を改善し、売上や利益を増加させることで、企業価値を高めます。また、施設の設備やサービス品質を向上させることも重要です。企業価値が高まると、M&A時の売却価格が上がります。
さらに、M&Aで事業の譲受を検討している場合は、M&Aの目的(資金調達や事業拡大)を明確にすることが大切です。 売却先選定や交渉において、明確な目的を持つことで、適切なお相手を見つけることができます。
信頼できるM&A専門家や法律アドバイザーとのネットワークを構築しておくことも重要です。現在はM&Aについて考えていない場合でも、中長期的に考えるとM&Aという選択肢が必要になる可能性もあります。M&Aに向けて実際に動き出すとなった際、M&Aプロセスをスムーズに進めることができるよう、情報収集といった軽い気持ちで、専門家とつながりを構築しておくのもよいでしょう。
企業の財務状況、売上、利益、施設の立地や規模などの情報を整理し、資料化しておくこともおすすめです。これにより、M&Aに向けて動き出した際に迅速かつ正確に情報を提供できるようになります。自社でまとめるのが大変な場合は、M&A仲介会社の価値診断サービスを活用するのも一考です。財務状況を第三者目線で見ることで、自施設の課題や新たな発見につながることもあります。
当社でも企業・事業の価値を無料で診断できるサービスを行っております。診断までの流れは以下の通りです。
お預かりした書類については秘密保持誓約書に従いお取り扱いし、診断後は責任をもって返却または破棄させていただきます。
また、当社ではM&Aが成約した場合のみ手数料を頂戴しております。ご相談や価値診断には一切の費用をいただいておりませんので、お気軽にご相談ください。
本コラムでは、介護施設のM&Aにおけるリスクやトラブル、対応策についてお伝えしました。
介護施設に限らず、M&Aでは悪質な仲介業者やトラブルに巻き込まれないための注意が必要で、情報漏洩や契約条件の不透明さ、専属契約の強制などのリスクも存在します。
しかしM&Aには多くのメリットがあります。
M&Aを通じて、経営に困っている企業は資金調達や経営資源の強化を図ることができ、何より事業を存続させることができます。また、事業拡大を目指す企業は、新たな市場や顧客層を獲得する機会を得ることができます。
したがって、M&Aを敬遠するのではなく、トラブルに巻き込まれないために信頼できる専門家を選定し、慎重に進めることが、M&Aの成功のカギとなります。
CBパートナーズは医療・介護・福祉業界の承継支援に特化したM&A仲介会社です。当社は「M&A支援機関に係る登録制度」に登録しており、透明性と公平性を重視し、お客様の利益を最優先に考えたM&Aサポートを提供いたします。
情報収集や過去の事例が聞きたいなど、ご相談はすべて無料で承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。