介護業界において、ICTの導入は業務効率化や生産性の向上に大きく寄与しています。特に、介護報酬改定の影響や国が推進する施策を考慮すると、ICTの導入は避けて通れない道となってきました。
ICTの活用は、単なる業務改善にとどまらず、介護サービスの質の向上にも寄与し、利用者の満足度向上にもつながります。また今後の介護業界において、イノベーションを推進し、競争力を高めるための重要なカギを握ります。
本コラムでは、ICT導入のメリットや成功事例を通じて、介護事業者が直面する課題などについて解説していきます。
当社がこれまでお会いした数々の事業者様の中で、ICT導入に積極的な事業所の特徴として、大規模な事業所や、経営者が40〜50代と比較的若いケースが多く見られました。それらの事業所ではICTを活用することで業務を効率化し、限られた人材で最大限の成果を上げることに成功しています。これにより、業務の効率化だけでなく、職場環境の改善にもつながっています。さらに、若い経営者は新しい技術への適応力が高く、迅速にICTを導入することで、競争力を維持しています。
様々な都道府県にまたがって事業を展開する企業は、地域ごとの業務統一や情報共有が重要です。そこでこれらの課題を解決するためICTを利用することで、情報の一元管理や迅速な意思決定が実現可能となっています。
さらに、地域ごとのニーズを的確に把握し、サービスを柔軟にカスタマイズすることで、地域密着型のサービスの提供と、地域社会との信頼関係を築くことが可能です。また、ICTの導入により、医療機関など地域間での連携も強化され、事業の成長につながる重要な要素となっています。
ICTの導入によって得られる最大のメリットは、情報の可視化と共有の容易さです。例えば、申し送りや引継ぎの記録が電子化され、常に最新の情報にアクセスできるようになります。この結果、業務時間が短縮され、従業員の生産性が向上します。また蓄積されたデータを活用して管理職会議などを実施することで、管理職に経営の目線を持っていただくことに成功し、従業員全体も生産性や運営に対する意識が高くなったというケースもありました。
ICTの導入により、直接ケアにあたる時間が増加し、介護の質が向上します。この結果、職場環境が改善され、働きやすい環境が実現されることで、人材の確保や定着率の向上にも寄与します。特に、若い世代の人材にとって、ICT環境が整った職場は魅力的に映ることでしょう。
またICT化された環境は、従業員のモチベーションを高め、仕事の満足度を向上させる要素として機能します。ICTの導入は、業務の質や効率を高めるだけでなく、職場の魅力を増加させ、人材の流出を防ぐための重要な戦略となります。
ICTと一括りにしてもPCやタブレット端末をすでに導入し、介護記録の作成やカルテの情報共有に活用している事業所は多いと思われますが、そのほかの事例として、以下が挙げられます。
介護ソフト
利用者情報の管理やケアプランの作成、介護保険請求、売上・入金の管理などを行うことができます。
介護記録から請求までを一括して管理するシステムで、業務効率化に寄与します。
一方、新しい技術の導入に対して、特に高齢のスタッフを中心に操作の習熟に不安を感じる声や、解消できない人材不足の声も聞かれます。
介護報酬改定ではICT導入により職員の配置基準の緩和がありましたが、夜間などもともと職員数が少ない状況で、さらに人数が減ることで、人手が必要な介助が大変になったり、見守り機器を導入しても、やはり最後は人の目で確認が必要となるため、大変さは変わらないという声もあるようです。
ICT導入は人材不足対策の一つの手段ですが、処遇改善や職場環境の向上と併せて取り組むことが、より効果的な人材確保・定着につながります。介護現場の持続可能性を高めるには、技術と人的要素のバランスを取ることが重要です。
また、依然として多くの行政手続きは紙で行われており、住民や職員にとって手間や時間がかかる状況が続いています。特に高齢者や障害者にとっては、役所への訪問が負担となることがあります。現場だけではなく、行政も柔軟なデジタル化を推進してほしいと思います。
政府は2026年4月から「介護情報基盤」の施行を予定しています。この基盤では、介護レセプト情報や要介護認定情報、ケアプランなどを含む5つの情報を、事業者、市町村、ケアマネジャー、利用者間で共有することができます。
この施策により、情報の透明性が確保され、サービス提供者間の連携が強化されることで、介護スタッフは利用者に最適なケアプランを提供できるようになり、結果として介護サービスの質が向上し、利用者にとってもより良い生活環境が整うことが期待されます。
国は介護情報基盤の整備に向けて、システム設計、事業者支援策の構築、自治体システム改修の支援、早急な情報提供等を行うとしています。市町村(介護保険者)、介護事業所においては、以下の準備が必要とされています。
具体的なシステム改修の内容、システムの仕様等については、介護情報基盤の調達仕様書、自治体システム標準化仕様書などで、情報公開される予定です。
主体 | 令和8年4月までの課題(主なもの) |
市町村 (介護保険者) | ・介護保険事務システムの標準化に伴う改修等 (介護情報基盤との連携が含まれる) ※ 介護情報基盤の施行までに標準準拠システムへの移行が 間に合わない場合は、既存システムの改修によって対応 |
介護事業所 | ・インターネット環境の整備 (既存端末も利用可能) |
介護情報基盤は市町村の地域支援事業の中で運用されることになっているため、システムの改修費について国からの財政的なサポートが必要との声もあがっており、介護事業所におけるカードリーダー導入の支援策なども含め、事業所・施設の負担を極力軽くする措置を並行して検討していくとしています。
近年の介護報酬改定では、ICTの導入・活用が評価の対象となっています。令和6年度(2024年度)の介護報酬改定では、ICTの活用を評価する新たな加算として「生産性向上推進体制加算」が新設されました
両加算とも、年1回以上のデータ提出が必要です。この施策により、介護現場でのICT活用が促進され、業務効率化とサービス品質向上が期待されています。
生産性向上推進体制加算以外にもLIFEへのデータ提出や活用が加算の算定要件にもなっています。このことからICTの導入が進んでいない事業者は収益面で不利になる可能性があります。国もどんどんICT化を進めていることから、将来的に、ICT導入が介護保険制度の基準や要件として義務化される可能性もあり、その場合は事業継続が困難になる事業者も出てくるのではないでしょうか。
ICT未導入の企業は、デジタル化への抵抗感、紙ベース業務への固執、組織の消極的姿勢があり、業務効率化や競争力の強化においても課題を抱えていることが多いです。特に小規模事業所では資金やIT人材・デジタルスキルを持つ従業員の不足、人材育成の遅れといった課題が多いのではないでしょうか。
これらを解決するために、ICTのノウハウを持つ企業の傘下に入ることも一つの解決策となります。グループインは企業同士のシナジー効果を生み出し、競争力を強化するだけでなく、業務の効率化を通じてコスト削減を実現します。
ICTを活用することで、業務の質や効率が向上し、結果として人件費削減や利益率改善に寄与します。そのためM&Aでの企業評価においても「ICT導入」は重要な要素となります。
ICT導入は、企業の持続可能な成長の基盤となり、将来のビジネスチャンスを拡大します。企業の競争力を高めるためには、ICTの積極的な活用は不可欠となり、企業の未来を左右する重要な指標となるでしょう。
ICTの導入は、現場の効率化だけでなく、M&Aの際にも重要な評価要素となり、企業価値向上につながります。
一方で「ICTの流れについていけないから事業を売却したい」というお声もよく耳にします。
当社では譲渡に関するご相談を、全て無料で承っております。
過去の成約事例や業界動向が知りたい、現在の事業の価値が知りたいなど、気になることがございましたら、お気軽にお問い合わせください。