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社会福祉法人の事業譲渡ガイド~手続きと留意点~

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社会福祉法人 事業譲渡

はじめに

社会福祉法人の事業譲渡は、経営環境の変化や地域ニーズの多様化に対応するための重要な手段となっています。

特に、経営状況の改善やサービスの継続を図るために、他の社会福祉法人への事業引き継ぎが求められる場面が増えています。しかし、社会福祉法人は公益性を重視した特有のルールが存在し、一般企業のM&Aとは異なる複雑なプロセスが伴います。

本コラムでは、社会福祉法人の事業譲渡に関する基本概念やメリット、手続きの流れ、留意点について事業譲渡を検討する際の参考となる情報を解説します。

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社会福祉法人の事業譲渡とは?

~社会福祉法人の事業譲渡の基本概念~

社会福祉法人の事業譲渡とは、ある社会福祉法人が運営する事業を継続させるために、他の社会福祉法人に引き継ぐことを指します。このプロセスは、経営状況の改善や事業の拡大、運営の効率化を目的として行われることが多くありますが、社会福祉法人は運営しているすべての社会福祉事業を譲渡することはできず、一部の事業のみしか譲渡することができません。一般企業のM&Aとは異なり、社会福祉法人は公益性を重視した独自のルールが存在します。

・譲渡できる事業の範囲

社会福祉法人間で譲渡できる事業の範囲は限定的です。具体的には、介護施設、保育施設、障害者支援施設などの事業が対象となります。これらの事業は、社会福祉法に基づき、公共の福祉を目的として運営されるため、譲渡先も同じく社会福祉法人である必要があります。
譲渡できるものとしては、土地・建物などの有形資産、人材、事業運営のノウハウがあげられます。

・社会福祉法人の事業譲渡のメリット

  • 選択と集中: 不採算事業や戦略的に重要でない事業を切り離し、核となる社会福祉事業に経営資源を集中できます。これにより、サービスの質の向上や効率的な運営が可能になります。
  • サービスの継続: 単独では継続が困難な事業でも、他の社会福祉法人に譲渡することで、利用者へのサービスを途切れさせることなく継続できます。
  • 職員の雇用維持: 事業譲渡により、職員の雇用を維持しつつ事業を継続させることができます。これは、社会福祉法人の社会的責任を果たす上で重要です。

・譲受する側のメリット

  • サービス提供エリアの拡大: 新たな地域で事業を展開することができ、より多くの利用者にサービスを提供できるようになります。
  • サービスラインの拡充: 既存のサービスに加えて新たな種類の社会福祉サービスを提供できるようになり、総合的なサービス提供体制を構築できます。
  • 運営の効率化: 事業規模の拡大により、管理コストの削減や業務の効率化が図れます。これは、サービスの質の向上にもつながります。
  • 専門知識の吸収: 譲渡元の法人が持つ専門的なノウハウや運営ノウハウを獲得できます。これにより、サービスの質の向上や新たな取り組みの実施が可能になります。
  • 人材の確保: 事業譲渡に伴い、経験豊富な職員を受け入れることができ、即戦力として活用できます。
  • 地域ニーズへの対応: 地域で必要とされているサービスを引き継ぐことで、地域社会への貢献度を高めることができます。
  • 地域との関係強化: 既存の利用者や地域とのつながりを引き継ぐことで、地域に根ざした事業展開が可能になります。

社会福祉法人の合併と事業譲渡の違い

合併と事業譲渡の違い

社会福祉法人のM&Aには、合併と事業譲渡の2つの方法があります。

合併とは、2つ以上の法人が統合して新たな法人を設立する方法であり、事業譲渡は特定の事業のみを他の法人に引き継ぐ方法です。合併の場合、法人全体が統合されるため、経営資源の一体化が図れますが、手続きが複雑で時間がかかるのが一般的です。一方、事業譲渡は特定の事業のみを譲渡するため、比較的合併より簡易に実行できますが、譲渡できるのは対象となる事業となっています。

一般企業のM&Aとの違い

一般企業のM&Aと社会福祉法人の事業譲渡には、いくつかの重要な違いがあります。一般企業のM&Aは、主に経済的利益を追求するために行われますが、社会福祉法人の場合は、公益性を重視した運営が求められます。また、一般企業のM&Aでは譲渡対価が発生することが一般的ですが、社会福祉法人は非営利組織であるため、資金の使途には厳格な制限があり、法人外への対価性のない支出は認められていません。

そのため譲渡対価は事業計画を加味したり、事業の価値を適切に見積もらないと法人外流出になるとされます。また社会福祉法人が国庫補助金を受けて取得した財産を譲渡する場合、原則として補助金の返還義務が生じるケースもあるため、事業譲渡を検討する際は、事前に行政へ相談するようにしましょう。

社会福祉法人の事業譲渡の手続きの流れ

社会福祉法人の事業譲渡は、厚生労働省が示している「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」および「合併・事業譲渡等マニュアル」に基づいて進める必要があります。具体的な流れは以下の通りです。

I. 法人間調整(合意形成・契約)

 1.調査・検討の準備

└事業譲渡の目的や方針を明確にし、譲渡対象事業を選定します。また、譲渡先法人の選定基準を設定します。この段階で、事業譲渡の全体的な方向性を定めることが重要です。

2.事前調査

└譲渡対象事業について、財務、法務、業務等の詳細な調査(デューデリジェンス)を行います。この過程で、潜在的なリスクを洗い出し、評価することが必要です。

3.事業譲渡等の合意形成

└社会福祉事業の許認可、介護保険事業者の指定、障害福祉サービス事業者の指定など、必要な申請手続きを行います。これらは所轄庁や自治体の担当部署に対して行う必要があります。


II. 法令手続き(行政等との調整)

4.事業に係る各種申請

└社会福祉事業の許認可、介護保険事業者の指定、障害福祉サービス事業者の指定など、必要な申請手続きを行います。これらは所轄庁や自治体の担当部署に対して行う必要があります。

5. 定款の変更

└事業譲渡に伴い、定款の変更が必要となる場合があります。変更内容を検討し、所轄庁への認可申請を行います。

6. 会計・税務処理

└譲渡資産・負債の評価を行い、譲渡益・譲渡損を適切に計上します。また、必要な税務申告の準備を行います。


III. 資産・負債等の移管手続き

7. 資産・負債等の移管

└譲渡対象となる資産・負債を特定し、実際の移管手続きを実施します。この過程では、適切な評価と管理が重要です。


IV. 関係者調整等(譲渡事業等に関係する職員との調整)

8. 人事・労務関連

└従業員の処遇を検討し、労働契約の承継手続きを行います。また、就業規則等の整備も必要となります。

9. 利用者や利用者家族、地域への説明

└事業譲渡について、利用者や利用者家族、地域住民に対して説明会を開催したり、個別面談を実施したりして、十分な理解を得るよう努めます。


V. 事業譲渡等の後に必要となる手続き等 

10. 規程・マニュアル類、システムなどの整備

└業務フローを見直し、各種規程・マニュアルの改定を行います。また、必要に応じてシステムの統合や更新を行います。

この流れはマニュアルに示された一般的なものであり、具体的な手続きや必要書類は各自治体によって異なる場合があります。また、譲渡の規模や内容によっても手続きが変わる可能性があるため、所轄庁との綿密な相談が重要となります。

出典:厚生労働省|社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン
合併・事業譲渡等マニュアル

社会福祉法人における事業譲渡の留意点

・社会福祉法人間での譲渡の可否

社会福祉法人間での事業譲渡は、法令に基づき許可されています。ただし、譲渡先も社会福祉法人である必要があり、公益性を維持するための厳格な条件が課されます。譲渡の際には、譲渡元と譲渡先の双方が法令を遵守し、公益性を確保するための適切な手続きを行うことが求められます。

・行政への事前相談の重要性

事業譲渡を進める上で、行政への事前相談は非常に重要です。これにより、必要な手続きや留意点を事前に確認することができ、スムーズな進行が期待できます。また、行政のサポートを得ることで、法令遵守の確保やトラブルの未然防止にもつながります。

・譲渡対価の受け取り禁止とそのリスク

社会福祉法人の事業譲渡において、譲渡対価を受け取ることは法律で禁止されています。これは、公益性を重視する社会福祉法人の特性に基づいた規制です。過去には、理事長が不正に譲渡対価を受け取り逮捕されたケースもあり、法令遵守は非常に重要です。譲渡対価を受け取らないことで、一見すると譲渡元にとって不利益に見えるかもしれませんが、法令を遵守することで信頼性を確保し、長期的な視点での経営安定に寄与します。

・役員の退職慰労金に関するルール

社会福祉法人の役員が退任する際の退職慰労金に関するルールも重要な留意点です。2024年9月には『「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について」等に関する Q&A』について退職慰労金のルールが追加されました。

以下、退職慰労金の支給基準について示されたQ&Aです。

  • 問:第 45 条の 35 第2項の規定に基づき、役員の報酬等の支給基準を変更することができるものであるが、退職慰労金についても変更することができるのか。また、合併前の法人において、合併が行われることは変更理由となるのか。

という問いに対し、次の回答が示されました。

退職慰労金の支給基準は、法第 45 条の 35 第1項及び第2項の規定に基づき、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該社会福祉法人の経理の状況その他の事情を考慮して、法人が必要と認める場合には、これを変更することができる。一般に、合併前の法人において、合併が行われるという事情のみをもって退職慰労金の支給基準を変更することは難しい。合併するかに関係なく、支給基準の客観性をより高めるために算定過程を見直し、例えば、月例報酬に在職年数に応じた支給基準を乗じて算出した額への変更を行うことは考えられる。なお、支給基準の変更に当たっては、その過程や支払額の算定方法、それが「不当に高額」でないこと等について、客観的に説明できるようにする必要がある。

この回答をまとめると下記の通りです。

●支給基準の変更の可能性
→法第45条の35第1項及び第2項に基づき、必要と認める場合に変更可能である。

●変更時の考慮事項について
→民間事業者の役員報酬・従業員の給与・法人の経理状況・その他の関連事情を考慮する必要がある。

●合併と退職慰労金の支給基準の変更について
→合併予定のみを理由とする変更は通常困難だが、合併に関係なく、支給基準の客観性向上のための見直しは可能である。

●支給基準変更の具体例
→在職年数に応じた支給基準に月例報酬を乗じて算出する方法などがある。

●役員慰労金の変更時の重要ポイント
→・変更過程、支払額の算定方法を明確化する。
・「不当に高額」でないことの説明を行う。
・客観的に説明できる根拠の準備をする。

●役員慰労金の透明性の確保
→変更理由や内容を明確に説明できるようにすることが重要である。

出典:厚生労働省|「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について」に関するFAQ」の改訂について

・仲介者を利用する場合の手数料について

2024年9月に改訂された「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」と「合併・事業譲渡等マニュアル」では、仲介者を利用する場合の手数料について、次の項目が新たに明記されました。

  • 社会福祉法人の特性を踏まえると、法人として社会への説明責任が果たせるかの観点から、法人の理事会等において仲介者の必要性と選定理由の合理性、手数料の金額の妥当性を判断する必要があります。具体的には、業務内容、手数料の算定方法などを確認し、仲介者の業務内容と手数料の金額が客観的に見合っているか判断するとともに、必要に応じて、提示された以外の方法での算定を依頼することや、別の業者の見積又は会計専門家の意見を材料に交渉することなどを検討する必要があります。

仲介者を利用することで、専門的な知識や経験を活用できる反面、手数料が発生することを理解しておく必要があります。具体的な手数料の額や支払い条件については、事前に確認し、契約書に明記することが重要です。

出典:厚生労働省|合併・事業譲渡マニュアル

さいごに

社会福祉法人の事業譲渡は、公益性と効率性のバランスを取りながら進める必要がある複雑なプロセスです。もし社会福祉法人の事業譲渡をご検討されている場合は、専門的な知識と経験を持つM&A仲介会社を活用することが、このプロセスをスムーズに進める上で大きな助けとなります。

CBパートナーズでは社会福祉法人の事業譲渡をご支援した実績がございます。
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