本コラムでは2024年の介護保険法改正によって生まれた新たな制度
「介護サービス事業者経営情報の報告制度」について報告すべき事項や新たなデータベース
「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」について解説していきます。
※2024年8月末時点での情報となります。
「介護事業者の経営情報報告」は2024年の介護保険法改正によって新たに生まれた制度で、
原則すべての介護事業者は、都道府県へ財務状況を報告することが、2025年1月から義務付けられます。
厚生労働省は都道府県を通じて集めたデータを分析し、国民に分かりやすく公表するというもので、
個々の事業所のデータが公表されるわけではありません。
報告は毎会計年度終了後から3か月以内に行うこととなっていますが、
初年度にあたる2024年度の報告(2024年3月31日から同年12 月 31 日までに会計年度が終了する報告)に限っては、2025年3月末までが報告の期限となっています。
この制度の目的は、介護事業者の経営状況を見える化し、実態を詳細に把握・分析することです。
報告で集まったデータを介護報酬改定や介護職の処遇改善などの施策の検討に活用することで、
制度の持続可能性の向上につながることが期待されます。
対象者は原則全ての介護事業者となっていますが、
運営するすべての事業所や施設が過去1年間の介護報酬が計100万円以下、
または災害などにより報告を行うことができない正当な理由があるなど、
いずれかに該当する場合は報告義務の対象外となります。
また報告は原則、事業所・施設単位で行うとされていますが、
事業所や施設ごとの会計区分を行っていないなど、やむを得ない場合は法人単位での報告を認めることになっています。
① 訪問介護
② 訪問入浴介護
③ 訪問看護
④ 訪問リハビリテーション
⑤ 通所介護、通所リハビリテーション
⑥ 短期入所生活介護
⑦ 短期入所療養介護(則第 14 条第4号に掲げる診療所に係るものを除く)
⑧ 特定施設入居者生活介護(養護老人ホームに係るものを除く)
⑨ 福祉用具貸与
⑩ 特定福祉用具販売
⑪ 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
⑫ 夜間対応型訪問介護
⑬ 地域密着型通所介護
⑭ 認知症対応型通所介護
⑮ 小規模多機能型居宅介護
⑯ 認知症対応型共同生活介護
⑰ 地域密着型特定施設入居者生活介護(養護老人ホームに係るものを除く)
⑱ 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
⑲ 複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)
⑳ 居宅介護支援
㉑ 介護福祉施設サービス
㉒ 介護保健施設サービス
㉓ 介護医療院サービス
㉔ 介護予防訪問入浴介護
㉕ 介護予防訪問看護
㉖ 介護予防訪問リハビリテーション
㉗ 介護予防通所リハビリテーション
㉘ 介護予防短期入所生活介護
㉙ 介護予防短期入所療養介護(則第 22 条の 14 第4号に掲げる診療所に係るものを除く)
㉚ 介護予防特定施設入居者生活介護(養護老人ホームに係るものを除く)
㉛ 介護予防福祉用具貸与
㉜ 特定介護予防福祉用具販売
㉝ 介護予防認知症対応型通所介護
㉞ 介護予防小規模多機能型居宅介護
㉟ 介護予防認知症対応型共同生活介護
今回の制度では介護事業に関する事項を報告する事となっていますが、
医療や障がい福祉サービス関連の事業も行っている場合は、それらの収益や費用の記載が介護サービスと
区分されていなければ、医療や障がい福祉サービスの事業分を除外せずに報告できます。
介護事業者が報告する内容は、大きく分けて4項目あります。
(2)介護事業費用
①うち給与費
ア)うち給与
イ)うち役員報酬 ※
ウ)うち退職給与引当金繰入 ※
エ)うち法定福利費 ※
②うち業務委託費
ア)うち給食委託費 ※
③うち減価償却費
④うち水道光熱費
⑤うちその他費用
ア)うち材料費 ※
ⅰ)うち給食材料費 ※
イ)うち研修費※
ウ)うち本部費 ※
エ)うち車両費 ※
オ)うち控除対象外消費税等負担額 ※
(3)事業外収益 ※
①うち受取利息配当金 ※
②うち運営費補助金収益 ※
③うち施設整備補助金収益 ※
④うち寄付金※
(4)事業外費用 ※
①うち借入金利息 ※
(5)特別収益 ※
(6)特別費用 ※
(7)法人税、住民税及び事業税負担額 ※
出典:厚生労働省|介護保険法第115条の44の2の規定に基づく介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等に関する制度に係る実施上の留意事項について
介護事業者が都道府県へ財務状況を報告する際に、
新たなデータベース「介護事業財務情報データベースシステム(仮称)」を使って報告をすることになります。システムは現在開発中で、ログインには「GビズIDアカウント」といわれるものが必要となります。
アカウントの作成方法や運用方法についてはマニュアルが作成され、2024年秋頃に厚生労働省から公表される予定です。
報告は「介護事業財務情報データベースシステム」を使い、以下の4つのデータの入力・ファイルの登録が必要となります。
介護ソフトから出力したcsvファイルをアップロードしたり、Webの専用フォームに入力したりする形で
想定されています。
No. | 報告データ | 報告データの説明 | 入力形式 |
1 | 損益計算書等データ | 介護サービス事業者の収益及び費用の情報を報告 | ・画面入力 ・ファイル登録 |
2 | 届出対象事業所データ | 「損益計算書等データ」に含まれる届出対象とした事業所情報(介護事業所番号、介護事業所名、サービス種類コード)を登録 | ・画面入力 ・ファイル登録 |
3 | 事業所連絡先データ | 「届出対象事業所データ」に含まれる介護事業所の連絡先(メールアドレス)を登録 | 画面入力 |
4 | 追加情報データ | 報告に関連する情報として、以下の情報を追加情報として登録 ●損益計算書等データに含まれる介護以外の事業(医療、障がい等)に係る情報※報告の対象とするサービスは介護サービス事業に係る事項のみを対象とすることを基本としているが、医療・障がい福祉サービスに係る事業を併せて実施する事業所・施設にあっては、本追加情報として登録する ●事業所または施設の職員の職種別人数その他の人員に関する事項 | 画面入力 |
出典:厚生労働省|会計ソフトウェアベンダ向け説明
「介護事業財務情報データベースシステム」にログインする際に、GビズIDのアカウントが必要になります。
GビズIDアカウントとは法人・個人事業主向けの共通認証システムのことで、1つのID・パスワードで、
複数の行政サービスにログインでき、補助金の申請や社会保険の手続きなどをすることができます。
厚生労働省は本制度についてのQ&Aで、すでにGビズIDプライムアカウントを取得している介護事業者については、「経営情報の報告のために新たにアカウントを取得する必要はない」としています。
厚生労働省はGビズIDのアカウントを取得する方法や、運用方法についての解説を、2024年秋頃に公表するとしており、報告期間である2025年1月から3月までに、アカウントを取得しておく必要があります。
もし事業所内で会計業務をしている場合は、新制度によって業務負担の増加は避けられません。
都道府県へ提出する財務諸表データは、税務署に提出している決算書ではなく、会計の区分に従い、
新しくデータを作成する必要があります。そのため新たな会計専任者を雇用したり、介護事業に精通する
会計事務所に変更したりすることも視野に入れるべきでしょう。
今回の新制度で公表される情報によって、同業他社の経営指標との比較が可能になるため、
自社の経営課題の分析に活用できるようになると思われます。
また、自施設の財務情報を把握しておくことで、将来、不採算の施設を売却、または買収を検討するときに重要な指標となるでしょう。
CBパートナーズでは無料で企業価値診断を実施しております。
「企業価値診断=売却」ではありません。
自社の現在の企業価値を知ることは、自社の決算を把握するのと同じくらい経営者にとって
必須の情報で、親族や従業員へ事業を承継する際にも必ず役に立ちます。
そして何より、今の企業・事業の本当の強み、ポテンシャルや経営課題が浮き彫りになり、
経営戦略の策定に活用することもできます。
ぜひ一度お気軽にご相談ください。