現在、政府は国民に対して「かかりつけ医」を持つように推奨しています。
医療機関にもかかりつけ医機能を持たせるため制度整備が進められています。
その中の一つとして「かかりつけ医機能報告制度」があり、
2025年4月から開始される予定となっています。
かかりつけ医機能報告制度については、今までさまざまな議論がなされてきましたが、
2024年7月に開催された「かかりつけ医が発揮される制度の施行に関する分科会」で、
大枠が決定しました。
本コラムではかかりつけ医機能報告制度の概要や課題、医療機関への影響について解説します。
※2024年8月時点での情報となります。
「かかりつけ医」「かかりつけ医機能」の定義です。
かかりつけ医とは・・・
なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要なときには専門医、専門医療機関を
紹介でき、地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する、身近で頼りになる医師
かかりつけ医機能とは・・・
地域の医療機関が、身近な地域における日常的な診療・疾病の予防のための措置、
その他の医療の提供を行う機能
出典:厚生労働省|かかりつけ医機能について
かかりつけ医報告制度は、2023年の医療法改正で発足された「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の枠組みの一つで、「医療機関が自院のかかりつけ医機能を報告する」という制度です。
そのほかの枠組みとして以下の2つも進められており、これらを含め2025年4月から施行開始予定です。
厚生労働省は制度の目的を以下のように示しており、地域ごとに必要な医療を必要なときに受けられる体制を確保し、医療・介護サービスの質向上につなげるのが狙いです。
かかりつけ医機能に関する制度整備が発足された背景として、高齢者のさらなる増加と生産年齢人口の減少が見込まれる中、地域密着型の医療機関は、介護サービスと連携しながら多様なニーズへの対応が求められています。
特に今後、在宅を中心に入退院を繰り返し、看取りを必要とする高齢者の増加で、
・慢性疾患の継続的な医学管理
・日常的によくある疾患への幅広い対応
・入退院時の支援
・休日・夜間の対応
・在宅医療
・介護サービス等との連携
といったニーズに対応する機能を確保するために、かかりつけ医機能報告制度を新たに設立し、
必要なかかりつけ医機能の充実・強化を図るとしています。
先述のとおり、かかりつけ医機能報告制度とは、慢性疾患を有する高齢者や継続的な医療提供を必要とする、地域住民を支えるための機能とされており、自院の「かかりつけ医機能の医療体制」を、都道府県へ報告する制度です。
かかりつけ医機能報告制度では、特定機能病院や歯科を除く、全国の病院と診療所が対象となります。
また対象医療機関は大きく「1号機能」と「2号機能」に分けられます。
これら3つすべてを「可」と報告した病院・診療所は「かかりつけ医機能を持つ」とされ、
2号機能も報告することになります。
※「1号機能」を持つ医療機関のみが「2号機能」の報告をするとされていますが、
今後見直しが検討される可能性があります。
※1[17診療領域]
皮膚・形成外科領域、神経・脳血管領域、精神科・神経科領域、眼領域、耳鼻咽喉領域、呼吸器領域、
消化器系領域、肝・胆道・膵臓領域、循環器系領域、腎・泌尿器系領域、産科領域、婦人科領域、
乳腺領域、内分泌・代謝・栄養領域、血液・免疫系領域、筋・骨格系および外傷領域、小児領域
※2[1次疾患を行える診療の範囲例]
(患者調査をもとに外来患者数の多い疾患をピックアップ、さらに精査する)
高血圧、腰痛症、関節症(関節リウマチ、脱臼)、かぜ・感冒、皮膚の疾患、糖尿病、外傷、脂質異常症、
下痢・胃腸炎、慢性腎臓病、がん、喘息・COPD、アレルギー性鼻炎、うつ(気分障害、躁うつ病)、骨折、
結膜炎・角膜炎・涙腺炎、白内障、緑内障、骨粗しょう症、不安・ストレス(神経症)、認知症、脳梗塞、
統合失調症、中耳炎・外耳炎、睡眠障害、不整脈、近視・遠視・老眼、前立腺肥大症、狭心症、
正常妊娠・産じょくの管理、心不全、便秘、頭痛(片頭痛)、末梢神経障害、難聴、頚腕症候群、
更年期障害、慢性肝炎(肝硬変、ウイルス性肝炎)、貧血、乳房の疾患
かかりつけ医機能を都道府県知事に報告する流れは以下のイメージです。
出典:厚生労働省|かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けた議論の整理(案)
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」で、かかりつけ医機能報告制度以外に創設された枠組みについて解説します。
かかりつけ医機能が発揮される制度整備を実現するために、「医療機能情報提供制度」も刷新されます。
もともと、各都道府県独自に運用していた「医療機関に関する情報提供システム」が、
2023年の医療法改正を受けて集約され、2024年4月から全国統一的な情報提供システム(医療情報ネット=ナビイ)として、すでに運用が始まっています。
この制度は患者による適切な医療機関の選択を支援するためのもので、
医療機能に関する情報(診療科目、診療日、診療時間、対応可能な治療内容など)について都道府県知事に報告することを義務づけ、それを都道府県知事が公表するといった制度です。
なお2024年4月から医療情報ネットの運用開始に合わせて、国民・患者目線でわかりやすい内容に情報提供項目が見直されました。診療科目・診療日・診療時間といった基本情報に加え以下の項目も追加されたことで、必要な情報を取得しやすくなり、医療機関を適切に選択できることが期待されています。
出典:厚生労働省|医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について
都道府県知事による、かかりつけ医機能の確認を受けた医療機関は、慢性疾患の高齢者に在宅医療を提供する際などに、外来医療で説明が必要・患者が希望する場合、かかりつけ医機能として提供する医療の内容について、電子的な方法または書面にて説明することが、努力義務となりました。
(かかりつけ医機能を持つとされた医療機関だけに課されます)
■努力義務となる場合
「自院において、継続的な医療を要する者に対して、在宅医療や外来医療を提供する場合であって、
概ね4か月以上継続的に医療の提供が見込まれる場合」としています。
患者への説明内容は以下の2点です。
「文書による説明」の方法としては、次のようなことが考えられています。
以下の場合では文書の説明義務が免除されることもあります。
出典:厚生労働省|かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に向けた議論の整理(案)
・患者の選択肢が増える
患者が医療機関を受診する前に、都道府県から公表されているデータをもとに、それぞれのニーズにあった適切な医療機関を選択することができるでしょう。
医療機関からの報告により、
●地域で充足・不足しているかかりつけ医機能を確保する施策などの充実
(プライマリケア研修や在宅医療研修)
●夜間・休日対応の調節
●在宅患者の24時間対応の調節
●後方支援病床の確保
●地域の退院ルール等の調節
●地域医療連携推進法人制度の活用など
を検討・実施することで、地域医療の質の向上が期待できるでしょう。
政府は情報を共有する手段として、医療DXの取り組みとして進めている「全国医療情報プラットフォーム」を活用し、地域の医療機関や多職種が機能や専門性に応じて連携しながら、地域におけるかかりつけ医機能の確保を推進していくとしています。
かかりつけ医機能報告制度の対象となる、全国の病院と診療所(特定機能病院や歯科を除く)が、全国医療情報プラットフォームを活用できる体制を作ることがまず課題でしょう。
そこで政府は医療DXを活用した医療提供に関する理解を深めるため、医療機関向けに医療DXについての研修を行う必要があるとしています。
>>>全国医療情報プラットフォームについてはこちらのコラムで紹介しています。
2024年7月に開催された「かかりつけ医が発揮される制度の施行に関する分科会」での
議論を踏まえ、今後、厚生労働省は2025年4月施行に向けた、かかりつけ医機能報告に係るシステム改修などを行うとともに、かかりつけ医機能に関する医師の研修の詳細について整理、ガイドラインの作成、
都道府県・市町村への研修・説明会の開催などを進めていきます。
施行を開始するために必要な取り組みとして次のことが進められる予定です。
かかりつけ医機能のなかには「在宅医療」が含まれていますが、在宅医療を充実させるために、
医療・介護・福祉の連携強化は必須です。
令和6年度の報酬改定や制度の改正では、医療機関と介護施設の「連携強化」が大きなキーワードになっています。今後かかりつけ医機能の制度整備のためには、医療機関を地域で調整する都道府県と、
介護・福祉行政を統制する市町村の、さらなる連携強化が求めるでしょう。