近年、介護報酬改定における影響、人材不足などを理由に介護事業の買収をお考えになられる経営者様が増えています。M&Aを進めるにあたっては、事前にその手続きや流れについての知識を得るのはとても重要となります。M&Aの実現には煩雑な手続きが多く、いざとなったタイミングで調べてもすぐに理解できるものばかりではありません。
本コラムが買収を検討する際のご参考になれば幸いです。
近年活発化している介護業界におけるM&Aでは以下のような傾向がみられます。
これまで大手介護サービス企業は、M&Aを活発に行ってきました。これは、市場シェアの拡大や地域展開のための戦略的な動きです。特に高齢化社会が進む中で、需要が拡大している介護市場において競争力を維持・強化するために行われています。
また介護業界に新たに参入する企業が、既存の事業所を買収するケースも見られます。介護事業では、政府による「総量規制」が設けられているため、新規事業者が自由に参入することが困難な業界となっています。この規制は、介護サービスの供給過剰を防ぎ、質の維持を図ることを目的としています。そこで注目されているのが、既存の介護事業のM&A(合併・買収)です。
M&Aでの市場参入ハードルの低下により、新規事業者が既存の事業を買収することで、比較的容易に市場に参入できるようになります。このようなM&Aの活発化により、介護業界に新たな競争力を持った企業が登場しています。
介護業界におけるM&Aは、単に規模の拡大だけでなく、事業の多角化を図るための手段としても行われています。例えば、介護施設だけでなく、在宅介護やリハビリテーションサービスなど、幅広い介護サービスを提供することで、顧客ニーズに応えることが狙いとされています。また地域に密着した中小規模の介護事業者同士のM&Aも見られます。これは地域での競争力を高め、サービスの質や効率を向上させることを目指したものです。
最近CBパートナーズにもご相談が増えているのが、医療法人が介護事業を買収するケースです。
買収のメリットとして以下があげられます。
令和6年度の報酬改定でも医療と介護の連携強化が求められ、今後も活発に医療法人による介護事業の戦略的な買収が行われるのではないでしょうか。
次に介護事業を買収するメリットについてご紹介します。
大きく「事業エリアの拡大」と「スタッフの確保」があげられます。
新たな地域に介護事業を展開することで、企業の市場シェアを拡大することができます。地域ごとに生活環境や介護需要が異なるため事業拡大によって、さまざまな地域の顧客層に対応でき、施設やスタッフを効率的に活用することができます。たとえば、複数の施設を持つことで、スタッフの配置や設備の共有化が可能になり、事業運営の効率化が図れます。また地域ごとのリスクを分散することができるため、ある地域での需要の変動や競争の激化などがあった場合でも、他の地域の事業が補ってくれる可能性があります。さらに複数の地域に展開することで、企業のブランド力を高めることができるため地域の利用者やその家族にとって、全国的に展開している企業は信頼性が高く、ブランド力の強い企業として認知される可能性があります。
人材不足の介護業界では人員の確保はかなり重要です。買収する場合、経験豊富な介護スタッフを確保できノウハウや技術を獲得することができます。
また買収対象の企業が特定の地域に密着している場合、その地域で信頼されているスタッフがいる可能性が高く、買収することでその地域でのスタッフの確保が期待できます。在籍中のスタッフにとってもM&Aにより多くのキャリアパスや成長の機会が生まれる可能性があるため、人材の定着や確保が期待できます。
介護施設の買収において、いくつかの失敗パターンが見られます。介護施設の買収を成功させるためには、人材の確保と育成、適切な財務評価、規制対応、そして効果的な統合プロセスの実行が重要です。これらの点に注意を払い、綿密な計画と実行を行うことで、失敗のリスクを軽減し、成功の可能性を高めることができます。以下に主な失敗例を説明します。
介護業界の最大の課題は人材不足です。買収後の方針や待遇の変更に対する不安や、新しい経営陣とのコミュニケーション不足、スタッフのモチベーションの低下により、買収後に既存のスタッフが流出してしまうと、サービスの質の低下や運営の困難につながってしまいます。
介護に対する理念や方針、業務プロセスや意思決定方法の違いなど、買手側と売手側の企業文化や価値観の違いが大きいと、統合後の運営がスムーズに進まない可能性があります。
介護報酬改定の影響を考慮していない、地域の競合状況や将来の介護需要の予測が甘いことなどが原因で、介護施設の収益性を過大に見積もってしまい、買収価格が高くなるケースがあります。
介護業界は厳しい規制下にあるため、法令や制度改正への対応漏れ、許認可の継続に必要な条件の見落とし、運営基準違反のリスクが生じると大きな損失につながってしまいます。
非現実的なシナジー効果を想定していると、買収後に期待した効果が得られず、買収の目的を達成できないケースがあります。
買手側と売手側、または経営陣と現場スタッフの間でコミュニケーションが不足し、混乱が生じることがあります。
M&Aを実行する前になぜ、M&Aを行う必要があるのか、自分は何のためにM&Aを行うのか、買収目的を明確にし自身の中で答えを出しておく必要があります。戦略もなしに目の前の案件だけを判断すると、失敗の原因の一つにもなりかねません。
次に買手側が見るべき「押さえておきたい介護事業のポイント」を解説します。
買収対象企業の人材の質と管理体制を評価します。スタッフのスキルや経験、労働条件、人事管理の取り組みなどを調査し、人材リソースの価値を把握します。
買収対象企業が所有する施設や設備の状況を評価します。施設の設備やメンテナンスの状況、物理的な環境の安全性などを調査し、資産価値を確認します。
買収対象企業の顧客や利用者の満足度を評価します。顧客満足度調査や利用者のフィードバックを収集し、サービス品質や顧客ロイヤルティを確認します。
統合するときに気を付けなければならないポイントは、以下が挙げられます。
これらのポイントを考慮しながら、M&Aの実行可能性やリスクを評価することが重要です。経験豊富なアドバイザーや専門家の助言を活用することも役立ちます。
先ほど介護事業の見るべきポイント・よくある失敗についてご紹介しましたが、買手側が買収対象企業や事業等に対する実態を把握し取引条件について適切な判断をするための調査を行うことを「デューデリジェンス」といいます。デューデリジェンスでは、買収対象企業の財務、法務、経営、オペレーションなど、さまざまな側面を詳細に調査し、買収のリスクや機会を正確に把握します。M&Aの交渉が進んでいき基本合意に達した後、買収側が買収対象への精査を行うことが一般的な流れです。
目的は、ひとことでいうと「対象会社、対象事業を知ること」です。
買収の機会やポテンシャルを発見するための重要な手段となり買収対象企業の成長戦略や市場ポジション、顧客基盤などを詳細に調査し、買収のメリットや将来の可能性を見極めます。
買手側として気になることは
・買収するに値する会社か
・買収額をいくらにするべきか
・買収実行の壁となる事項はないか
・買収後に経営に与える影響はないか
概ねこの4点に集約されるかと思います。
デューデリジェンスの結果、様々なリスク事項が検出された場合、当初想定していたスキームの変更、取引自体の見直しや想定買収額の減額調整等、買収側はリスクに応じた判断を求められることにります。
デューデリジェンスで発見された事項は、売手側と共有・交渉を重ねていき、最終契約時に条項に織り込むことによって対応がなされます。
経験豊富なアドバイザーや専門家の助言を活用し、十分な調査を行うことが成功の鍵となります。
経営移行には様々な手続きが伴います。スムーズに移行するために手続きの把握も必要です。
M&Aの計画や進捗状況について、スタッフと適切なコミュニケーションを行うことが重要です。不透明さや不安は組織の不満や離職率を引き上げる可能性がありますので、オープンで透明性のあるコミュニケーションを心がけます。
スムーズな経営移行を実現するためには、関係者との適切なコミュニケーションが欠かせません。経営移行に関する情報をスタッフや顧客、パートナーなど関係者に適切に伝えることで、不安や混乱を最小限に抑えることができます。
経営陣には、介護業界に関する豊富な経験と専門知識が求められます。介護サービスや施設の運営に関する深い理解や経験がある候補者を選択することが重要です。また買手側と買収対象企業の組織文化の適合性も考慮する必要があり、経営陣が新しい組織文化に適応できるかどうかを評価し、文化の不一致を最小限に抑えるための努力も必要不可欠です。
「選ばれる施設」になるには他の事業所との差別化は必須です。介護事業のM&A戦略を慎重に立てることで、競合他社との差別化を図り、市場での競争力を強化することができます。差別化を図るには以下の対応があげられます。
介護サービスの質や充実度を高めることで、他社との差別化を図ることができます。スタッフの継続的な教育や訓練、施設や設備の改善、サービスの多様化などを通じて、顧客や利用者に価値を提供します。
個々の顧客や利用者のニーズに合わせたカスタマイズされたサービスを提供することで、差別化を図ることができます。介護計画やケアプランの作成、ライフスタイルや好みに合わせたサービスの提供などがその例です。
テクノロジーを活用した革新的なサービスやソリューションを提供することで、他社との差別化を図ることができます。介護ロボットの導入、IoT(Internet of Things)を活用したモニタリングシステムの導入、オンラインカウンセリングサービスの提供などがその例です。
地域社会との密接な関係を築き、地域のニーズに合わせたサービスを提供することで、競合他社との差別化を図ることができます。地域のイベントやコミュニティ活動への積極的な参加、地域住民との協力関係の構築などがその例です。
スタッフが働きやすい環境を提供することで、高いサービス品質を実現し、競合他社との差別化を図ることができます。スタッフの福利厚生の充実、キャリア開発の機会の提供、働き方の柔軟化などがその例です。
介護事業においては将来の成長を見極めることは重要です。ただし、市場環境や競争状況の変化には柔軟な対応が求められるので、定期的な市場分析と戦略の見直しが必要です。
介護市場の動向やトレンドを調査し、将来の需要や需要の変化を予測します。高齢化社会の進展や介護サービスの需要増加などのトレンドを考慮し、市場の成長ポテンシャルを分析します。
人口統計データを分析し、将来の需要を見込みます。高齢者の人口増加や高齢化率の上昇などが介護サービスの需要に影響を与えるため、これらのデータを活用して需要の予測を行います。
技術の進歩や革新が介護サービスに与える影響を考慮します。介護ロボットやIoT技術、テレヘルスなどの新しい技術が導入されることで、サービスの質や効率が向上し、市場の成長が促進される可能性があります。
政府の介護政策や規制の変化を注視します。介護保険制度の改正や施設基準の変更などが介護事業に影響を与える可能性がありますので、これらの要素を考慮して将来の成長を見極めます。
顧客や利用者のニーズを理解し、市場のニーズに合致したサービスを提供することが重要です。将来の成長を見込むためには、顧客の声に耳を傾け、市場のニーズに対応したサービスの開発や提供を行います。
買収後によくある課題とその解説策については次の通りです。これらの課題に対して、計画的かつ柔軟に対応することが、M&A後の経営戦略を成功させる鍵となります。
文化の統合と組織風土の変革
買収企業と売手企業の組織文化の違いが課題となることがあります。解決策としては組織文化の評価と調査を行い、両者の共通点や相違点を明確にし統合計画を策定します。また、スタッフへのコミュニケーションや組織文化の浸透を図ります。
スタッフの定着とモチベーション向上
買収後に人材のマネジメントが課題となることがあります。解決策としてはスタッフのスキルや能力を評価し、適切な配置やキャリア開発を促進します。またスタッフへのコミュニケーションやフィードバックを積極的に行い、モチベーションを維持します
顧客満足度の維持と向上
買収後には顧客満足度を維持し、さらに向上させるための取り組みを行います。顧客の声に耳を傾け、サービス品質や利便性を改善します。
本コラムで解説した内容は、M&Aによる買収を進める上で重要なポイントの一部に過ぎません。
株式会社CBパートナーズは、株式会社キャリアブレイン(現 株式会社CBホールディングス)の経営支援情報室として医療・介護・福祉業界に特化した承継問題の解決に取り組んでから10年以上の実績とノウハウがあります。老人ホーム・介護施設の買収・拡大をお考えの際は、ぜひCBパートナーズへお気軽にご相談ください。私たちは貴社のビジョンや目標に共感し、最適な戦略とアプローチを提供し、貴社の成功を全力でサポートいたします。
作成日:2024年4月26日