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介護施設の事業譲渡を考えるなら

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はじめに

高齢化社会が急速に進展する日本において、介護施設の役割はますます重要になっています。
しかし同時に、人材不足や経営難、後継者問題など、介護事業者が直面する課題も山積みです。
こうした状況の中、多くの介護施設経営者が事業の未来について悩み、新たな選択肢を模索しています。
その選択肢の一つが「事業譲渡」です。

このようなことを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
〇いつの間にか介護事業所の名前が変わっていた
〇近隣の老人ホームを運営する会社が後継者不在で会社を譲渡した
〇知り合いの訪問看護ステーションが経営難で、利用者や従業員を近隣の他の事業所に承継した

事業譲渡には慎重な準備と計画、そして専門知識が必要となります。

本コラムでは、介護施設の事業譲渡を考える経営者の皆様に向けて、
その基本的な概念から実践的なアドバイスまで、段階を追って解説していきます。

介護施設の事業譲渡について知る

介護施設M&Aの種類

介護事業のM&Aは、そのほとんどが「株式譲渡」か「事業譲渡」の手法で実施されています。
「譲渡代金が誰に渡るか」 が根本的に異なり、M&Aの目的や対象会社の財政状態等から、適切な方法を選択します。

株式譲渡
株主が所有する株式を譲渡すること、これはすなわち会社全体を譲渡することを指します。譲渡代金は株式を売却した株主に入ります。一般的に株主兼経営者が引退する際や、別会社で異なる事業を始める際に取る方法です。

特徴としては

  • 事業所の許認可、有形固定資産や各種契約(賃貸借・雇用など)を包括的に移転することが可能。
    手続きが簡便&比較的短期間
  • 譲渡側の株主個人の税金は源泉分離徴収となり、株式譲渡益課税(約20%)のみとなる。
    税制メリット
  • 会社全体の譲渡のため、譲受会社から買収監査が必ず実施される。

 

事業譲渡
会社が運営している一部の事業所・施設のみを譲渡する方法を指します。譲渡代金は事業所・施設を売却した会社に入ります。一般的に事業を複数展開する企業が、一部を売却・整理する際に取る方法です。

特徴としては

  • 事業所の許認可を含め、各種手続きを個別に検討・移転する必要がある。
    たとえば許認可は、対象事業所の廃止・新規開設の届出が必要。
  • 譲渡側の法人(対象会社)に譲渡益課税(法人税:最大で約30%)が課される。
  • 偶発債務等の発覚を回避でき、譲受企業からは好まれる。
  • 譲渡側は株主兼経営者として、会社の運営を継続できる。

 

そもそも「M&A」とは?

M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業が合併または買収を行うプロセスを指します。
これは、経済的な戦略の一環として行われ、企業が成長し、競争力を向上させ、市場でのポジションを強化するために採用される手法です。

つまりM&Aを簡単に言うと、会社や事業を買収または売却することです。

■合併(Mergers)
合併は、2つ以上の企業が合同して新しい企業を形成するプロセスです。これは協力的なプロセスであり、両方の企業が同等の立場で参加します。合併には異なる形態があり、垂直統合(供給チェーン上または下の企業との合併)や水平統合(同じ業界の競合他社との合併)などがあります。

■買収(Acquisitions)
買収は、1つの企業が他の企業を購入するプロセスです。よくあるテレビドラマの世界では、買収は時に敵対的な形で進むこともありますが、現実では医療・介護業界の場合、「友好的M&A」や「救済型M&A」と呼ばれる交渉に基づいて進行されます。

介護施設のM&A(承継)を考える三大理由

承継を考える主な理由としては、以下のような理由が挙げられます。

  1. 業績の悪化、経営不振(介護報酬改定、競合)
  2. 人手不足、キーマンの退職(他業種や競合への人材流出、管理者などの急な退職)
  3. 後継者の不在(継ぎたくない、継がせたくないというケースの増加)

 

介護施設のM&A(買収)を考える三大理由

買収を考える主な理由としては、以下のような理由が挙げられます。

  1. 人材の流動化(スケールメリット、新卒、外国人労働者)
  2. シナジー効果(既存事業とのシナジー)
  3. 資金調達(大規模化による信用度の向上)

なぜ介護施設の事業譲渡が注目されているのか?メリットとは

事業譲渡は、特定の介護施設や介護サービス部門を他の企業に譲渡することを意味しますが、売り手にとっては経営課題の解決や事業継続性の確保、買い手にとっては成長市場での事業拡大や地域展開の機会として注目されています。高齢化社会の進展に伴い、介護施設の需要は今後も増加が見込まれるため、M&Aを通じた業界再編は今後も活発に行われると予想されます。

介護施設の事業譲渡が注目される背景

介護の事業譲渡が注目される背景

  1. 市場の成長性: 少子高齢化が進む日本において、介護施設運営は今後も市場規模の成長が期待できる数少ない業界の一つです。
  2. 収益性: 入居率が高ければ安定した収益を得ることができ、訪問介護などと比べて人件費負担が小さいため、収益性の高いビジネスとして注目されています。
  3. 業界の課題: 慢性的な人材不足や介護報酬の改定による経営圧迫などの問題により、中小の介護施設運営会社が安定した経営を求めてM&Aを検討するケースが増えています。

事業譲渡の売り手側のメリット

  1. 経営基盤の安定化: 大手介護事業者の傘下に入ることで、経営の安定化を図ることができます。
  2. 人材不足の解消: 大手企業のリソースを活用することで、人材不足の問題解決につながる可能性があります。
  3. サービスの質向上: 買い手企業のノウハウや資源を活用し、サービスの質を向上させることができます。
  4. 事業継続性の確保: 後継者不在や業績不振の問題を抱える企業にとって、事業譲渡は事業継続の有効な選択肢となります。

事業譲渡の買い手側のメリット

  1. 事業拡大: 既存の介護施設を取得することで、迅速に事業規模を拡大できます。
  2. 地域展開: 特定地域で事業を展開している中小介護事業者を取得することで、その地域での事業基盤を確立できます。
  3. シナジー効果: 自社の経営資源と統合することで、経営効率の改善や新たな価値創造が期待できます。

介護施設の価値はどのように評価されるのか

介護施設の事業譲渡における評価は以下のように分けられます。

■コストアプローチ(Cost Approach)

コストアプローチは、企業の資産と負債に基づいて価値を評価する方法です。

  • 特徴
    └貸借対照表上の資産・負債を基に評価を行います。
    └主に中小規模の介護事業や、資産価値が重要な事業に適しています。
    └簿価純資産法や時価純資産法などがこのアプローチに含まれます。

~コストアプローチの主な手法~

●時価純資産法

時価純資産法とは評価時点において会社が保有している資産の時価合計額から、負債の総額を控除した額を企業価値とする方法です。税法基準では、資産や負債の時価評価を行わなかったり、引当金を計上していないなど、実際の時価と相違があるケースがほとんどのため、資産と負債の全項目を時価で再度評価しなおすことにより、時価ベースに置き直します。

簿価純資産法

簿価純資産法は、貸借対照表に計上されている資産・負債の簿価を基に純資産額を算出し、企業価値を評価する方法です。この方法は主に中小企業の評価に多用され、新株発行や株式売買が頻繁に行われない企業に適しています。

コストアプローチの留意点としては、将来の収益性や成長性を反映しにくいため、成長期の介護事業には適さない場合があります。


■インカムアプローチ (Income Approach)

インカムアプローチは、将来的な収益価値を基準として企業価値を評価する方法です。

  • 特徴
    └将来の予測キャッシュフローを現在価値に割り引いて評価します。
    └成長性の高い介護事業や、将来性を重視する場合に適しています。

~インカムアプローチの主な手法~

●DCF法(ディスカウントキャッシュフロー方式)

この方法はDCF法と呼ばれ、Discounted Cash Flowの略です。会社が将来生み出す価値をフリーキャッシュフローで推計し、資本コスト(WACC)で割り引いて現在価値(DCF)に換算して会社を評価します。

※ 割引率やWACCの設定が企業や業種、業界によって大きくことなります。投資におけるリスクを表現する数値のため、公開性の低い業界ではあまり使われません。

●収益還元法

将来の利益やキャッシュフローを一定の還元利回りで割って価値を算出します。比較的簡単ですが、適切な還元利回りの設定が難しい場合があります。


■マーケットアプローチ (Market Approach)

マーケットアプローチは、類似企業や過去の取引事例との比較に基づいて企業価値を評価する方法です。

  • 特徴
    └類似する上場企業の株価や、過去のM&A事例を参考に評価を行います。
    └市場の実勢を反映した評価が可能です。

~マーケットアプローチの主な手法~

●類似会社比準方式(マルチプル法)

この方法は、利益等を物差しとして、業種や業態等が似ている上場企業の株価をもとに、対象会社の評価額を算出する方法です。市場においては、大手企業が上場していることから、それらの企業の事業価値額が利益等の何倍になっているかを参考に評価額を計算します。

●類似取引比較法

類似取引比較法は、過去に行われた類似企業のM&A取引事例を参考に企業価値を評価する方法です。

●類似業種比較法

類似業種比較法は、評価対象企業と類似する上場企業の株価や財務指標を参考に企業価値を評価する方法です。

マーケットアプローチの留意点としては、適切な比較対象を見つけることが難しく、介護業界の特性や個別企業の状況を十分に反映できないという可能性があります。

 

また施設の財務状況以外で評価されるポイントは次の通りです。

  1. 入居率
    • 施設の稼働状況を示す重要な指標です。高い入居率は安定した収益を示唆します。
  2. 立地条件
    • 交通の利便性、周辺環境などを評価します。周辺地域の高齢化率や競合状況、新規サービス導入の可能性など、良好な立地は将来の成長性にも影響します。
  3. 施設の状態
    • 建物の築年数と状態、個室率や共有スペースの広さなど設備の充実度、メンテナンス状況などを評価します。
  4. スタッフの質と定着率
    • 介護サービスの質に直結する要素として重要です。また、離職率の低さや人材育成システムの充実も評価のポイントとなります。
  5. 利用者満足度
    • アンケート結果や口コミなどから、サービスの質を評価します。
  6. コンプライアンス体制
    • 介護保険法や各種規制への対応、事故防止策の整備などを評価します。
  7. 地域との関係性
    • 地域に根ざした施設運営や、地域住民との良好な関係性は、施設の安定的な運営につながるため、高く評価されます。

介護施設の価値評価においては、これらの要素を総合的に判断することが重要です。財務的な側面だけでなく、非財務的な要素も重視され、特に介護サービスの質や地域での評判、将来の成長性などが重要な評価ポイントとなるでしょう。
また、介護保険制度の改定や地域の高齢化率など、外部環境の変化も考慮する必要があります。

介護施設の事業譲渡の進め方

売却・譲渡希望企業の場合は以下の流れで進んでいきます。

  1. M&A支援会社へ相談
  2. M&A支援会社へ財務資料などを提出
  3. 買収・譲受希望企業の選定
  4. トップ面談の実施
  5. 基本合意書の締結
  6. 買収監査
  7. 最終契約書の締結
  8. 社内告知・調整
  9. クロージング

買収・譲受希望企業の場合は以下の流れで進んでいきます。

  1. M&A支援会社へ相談
  2. 売却・譲渡希望企業のご案内
  3. トップ面談の実施
  4. 基本合意書の締結
  5. 買収監査
  6. 最終契約書の締結
  7. 行政手続き・届出
  8. クロージング

~事業譲渡の実例紹介~ポイントを解説

ではここで実際の介護施設における事業譲渡の事例とポイントを紹介します。

こちらの事例は初期検討から約1年6か月の期間がありました。

  • 【譲渡側】
    ・業態:サービス付き高齢者住宅(40床以下)、訪問介護、通所介護
    ・売却理由:オーナー様の体調面の問題
    ・ポイント:オーナー様が慢性的な体調不良に陥っていた
    ・オーナー様は譲渡後も継続して事業にかかわっていくことを希望

 

  • 【譲受側】
    ・業態:介護事業
    ・希望エリア:既存事業所とシナジーのあるエリア
    ・希望事業形態:おもに施設系
    ・買収ニーズ:現運営体制を維持するため、現代表の残留を希望
    ・現運営事業とのシナジー効果を重要視

【事業譲渡のポイント】

1.4社とのTOP面談実施

譲渡活動を開始し、売主様の希望条件を満たす先4社と同時期に面談しました。
最有力先の辞退という想定外もありましたが候補先の中で一番相性の良い先を選択しました。売主様からは複数面談をしておいてよかったというお声をいただきました。

  • 1社ずつ面談し意思決定するのは、リスクが高いため買い手候補は2~4社ほどとTOP面談を行うようにする
  • TOP面談後に買い手候補先が辞退する可能性も想定しておく

 

2.クロージング時期の再調整

順調に進捗していましたが、想定外の事象によりクロージング時期を
再調整する必要がありました。それに伴い、ほかスケジュールの調整も必要となりました。

  • 第三者を巻き込んだスケジュールは予定通りにならない可能性を認識しておく
  • まずは調整が困難な従業員挨拶などの関係人数が多いTODOを軸に予定調整を進め、第2候補日も設定しておく

 

3.価値算定時からの大きな状況の変化

実は一度価値算定を行ってから1年後に譲渡活動をスタートしました。
残念ながらその間に財務状況、収支状況が大きく変化していました。

  • 価値算定はあくまで、基準日時点での結果のため基準日以降の事象は改めて加味する必要がある
  • 価値算定から半年以上経過している場合は、最新での価値算定実施を推奨

介護施設の事業譲渡をする際に大事なこと

許認可の再取得

事業譲渡を行うと、既存の許認可は自動的に継承されません。新しい事業主体が改めて介護事業者としての認可を取得する必要があります。これには行政への申請や必要書類の準備、審査期間の考慮が含まれます。

補助金や加算の再確認

事業譲渡により、これまで受けていた補助金や特定事業所加算などが見直される可能性があります。特に運営期間が要件となっている加算については注意が必要です。

業界に強い専門家を選ぶ

介護施設の事業譲渡は複雑なプロセスであるため、M&Aの専門家や弁護士、行政書士などの専門家に相談することが推奨されます。助言を得ることで、スムーズな事業譲渡が可能になります。介護施設の事業譲渡は、単なる経営権の移転ではなく、利用者の生活に直結する重要な決断です。公共性の高い事業であることを念頭に置き、慎重かつ計画的に進めることが求められます。

企業・事業の状況を客観的に把握する

企業・事業の現在の状況を把握することで、改めて自社のポジショニングを認識することができ、売却・譲渡を検討する際にも企業事業概要や希望条件などを分かりやすくプレゼンすることが可能になります。

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自社の企業価値を客観的に把握することは、自社の決算を把握するのと同じくらい経営者にとって必須の情報なのです。

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作成日:2024年3月21日