CBパートナーズでは、介護・医療・福祉領域に特化したM&A仲介会社として、経営拡大、承継問題に取り組んできました。特に昨今、社会福祉法人からのご相談が増えています。
本コラムでは、社会福祉法人の課題や実態を踏まえて、M&A・事業承継を解決策の一つとして、具体的な手法や手続きについて解説します。
●<インタビュー>社会福祉法人 奉優会様~社会福祉法人の事業譲渡・合併について~
社会福祉法人とは、「社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉法に基づいて設立された法人」のことです。社会福祉法において社会福祉法人が行える社会福祉事業は第1種と第2種に分かれており、「第1種社会福祉事業」を行うことができるのは原則、国や地方公共団体、社会福祉法人のみとなります。また社会福祉法人は社会福祉事業の他に公益事業および収益事業を行うことが可能です。
社会福祉法人と一般企業との大きな違いは、一般企業は営利性を追求することが目的なのに対し、社会福祉法人は公共性を重視した非営利団体であることが特徴です。
社会福祉法人が行える主な事業内容は以下のとおりです。
①経営者の高齢化・後継者不在
社会福祉法人は同族経営、1法人1施設のような形体で零細規模の法人が多く存在します。
社会福祉法人の経営者は社会福祉事業、社会貢献に対して熱心な篤志家が多く、ご自身が健在のうちは経営を続けたいとお考えになる傾向にあります。そのため親族間の世代交代、後継者探しの対応が遅れ、なり手が見つからないといったケースがしばしば見受けられます。
②施設の老朽化
①にも通ずる部分がありますが、長年の経営により、施設自体が経過とともに劣化し、建替えや大規修繕が必要な時期にきていることがあります。
経営者はご自身が高齢になってなお追加で多額の借金は背負いたくないといった理由から、建替えや大規修繕が必要になった時点を引退のタイミングと考える方も少なくありません。
③赤字法人の増加
社会福祉法人において、赤字法人の割合が増えています。大規模法人においても約3割が赤字となっており、赤字法人の割合は拡大傾向にあります。大規模法人であっても経営安定の難しさが浮き彫りとなっており、小規模な法人においては、さらに深刻な状況であることが想定できます。
また、光熱費や人件費の高まりで経費が増しているため、規模を問わず、経営難に陥る可能性は高まっています。
出典:独立行政法人福祉医療機構「2022 年度社会福祉法人の経営状況について」
①法人・事業の継続
後継者不在や経営難といった課題を抱える社会福祉法人が、M&Aや事業承継という手段を通じて、法人・事業の継続を図ることは重要です。
社会福祉事業の提供が維持されることで、地域社会への貢献はもちろん、職員の雇用継続が可能となります。
②経営・事業の安定化
経営基盤の安定した社会福祉法人グループや事業規模の大きな営利法人グループの一員になることで、業務の効率化、採用力の強化、グループ内の資金支援により新たな施設開設、大規模修繕などが可能になる場合があります。また、赤字や採算性が低い事業の切り離しにより、コア事業への注力が可能となります。
社会福祉法人は、非営利法人であり、営利法人のような株式や持分という概念がありません。そのため、株式、持分のような譲渡対象の譲渡による売買はできません。以下、代表的な3つの手法を紹介します。
①実質的な経営権の承継
社会福祉法人の経営においては、理事が決定を行うため、理事会の構成メンバーの過半数以上を支配することで、事実上の経営権を取得することができます。
理事ついては、社会福祉法人の運営、介護福祉事業の経営に長けた方がふさわしいため、理事の選任が非常に重要です。
②合併
合併とは、2つ以上の法人が契約によって1つの法人に統合することをいいます。社会福祉法人の合併は、社会福祉法人間でのみ認められています。
経営基盤の安定した社会福祉法人、法人間のシナジー効果などを目安に合併先を探します。
③事業譲渡
社会福祉法人の場合、事業のすべてを譲渡することはできませんが、一部であれば不採算事業の整理も可能です。ただ、譲渡事業が社会福祉法人しか経営主体になれない場合もあるので確認が必要です。また、許認可や財産処分などに関する、行政・所轄庁への相談、特に補助金による財産取得がある場合は確認が必要です。
社会福祉法人の経営経営権の売買や金銭による理事長職の譲渡は、厳しく禁止されています。
このような行為は違法であり、当局から厳しい処分を受ける可能性があります。
2020年9月11日に、厚生労働省が「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」の一部として策定しました。策定の主な目的は社会福祉法人の合併や事業譲渡等の手続きや留意点を整理し、実務的な指針を提供することです。
このマニュアルは主に所管行政庁の担当者が、合併や事業譲渡等を検討または指導する際の手引きとして活用することを想定しています。マニュアルには、社会福祉法に定められた合併と事業譲渡等を実施する際の重要なポイントと留意点がまとめられており、 具体的な手続きや必要書類について詳細に説明し、実務的な対応の手引きとなっています。このマニュアルは、社会福祉法人がM&Aを検討する際の重要な参考資料となり、法的手続きや留意点を理解する上で非常に有用なツールとなっています。
出典:厚生労働省|合併・事業譲渡マニュアル
昨今、社会福祉法人のM&A・事業承継をめぐっては、社会福祉法人の経営権売買が認められていないにもかかわらず売買されたことや、多額の資金流用を行ったことにより、理事長が逮捕された事例が発生しています。
社会福祉法人のM&Aで違法となる場合は、以下のケースが挙げられます。
社会福祉法人には経営権という概念がなく、経営権の売買は認められていません。経営権を金銭で売買しようとすると、違法行為とみなされる可能性が高くなります。
M&Aの過程で社会福祉法人の資金を私的に流用したり、不適切に移動させたりすると違法となります。過去に新旧理事長による資金の着服で逮捕されたケースがあります。
社会福祉法人は高い公益性が求められるため、利益相反取引は厳しく制限されています。M&Aにおいて適切な手続きを経ずに利益相反取引を行うと、法的問題が生じる可能性があります。
社会福祉法人のM&Aには所轄庁の許可が必ず必要です。事前に所轄庁への相談や承認を得ずにM&Aを実施すると、違法となる可能性があります。
社会福祉法人では、法人外への対価性のない支出は認められていません。M&Aの過程で法人外への不適切な資金流出が行われた場合、違法となる可能性があります。
社会福祉法人のM&Aは複雑で法的リスクが高いため、専門家の助言を得ながら慎重に進める必要があります。違法行為を避けるためには、法令遵守と公益性を重視した運営が不可欠です。また、所轄庁への事前相談や承認取得、関係者への十分な説明と同意の取得など、適切な手続きを踏むことが重要となります。
社会福祉法人という特性上、一般企業のM&A・事業承継とは異なる独自の留意すべきルールが多数あります。
本コラムでは、M&A・事業承継における、一般的な内容を解説しましたが、経営者、法人ごとにご状況やお悩みは異なります。より具体的なM&A・事業承継の手法・手続き、譲受候補先、事例などについては、個別にてご相談に対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
作成日:2024年3月12日