2024年度の医療機関の倒産件数は過去最多となり、医療業界は深刻な状況に陥っています。経営環境が厳しくなっていることから、医療機関の事業承継も近年増加傾向となっています。
本コラムでは、病院、クリニックの事業譲渡、事業承継において、失敗しないようするための、手続き方法や、手段、進め方の留意点について解説します。
帝国データバンクの調査によると、2024年の医療機関の倒産件数が過去最多の64件と報告され、かつての最多件数だった2009年の52件を大きく上回りました。倒産件数の内訳は以下の通りで、診療所と歯科医院の倒産が急増し、過去最多を更新したとみられます。
倒産の主な原因は「収入の減少(販売不振)」が64.1%を占めました。
受診者の選別意識の高まりやコロナ関連補助金の削減、材料費・人件費の増大
コロナ関連融資の返済開始、経営者の高齢化(特に診療所で顕著)など複数の要因が関係していると見られます。帝国データバンクでは2026年には医療機関の倒産、休廃業・解散が1000件に達すると予測しています。
まず事業承継が増加している要因として、医療機関経営者の高齢化が進んでいることが挙げられます。特に診療所では、60歳以上の経営者が半数以上を占めており、今後5〜10年で後継者問題がピークを迎えると予測されています。
次に、後継者不足の問題があります。約半数のクリニック・医院で後継者が不在となっており、特に小規模な医療機関や地方での問題が深刻化しています。また、従来の親族内承継の文化が薄れつつあることも、この問題に拍車をかけています。
さらに、医療費抑制政策による診療報酬の削減や競争の激化により、経営環境が厳しくなっていることも背景にあります。これにより、単独での経営継続が困難になるケースが増えています。
一方で、新規開業のリスクを避けるため、既存のクリニック・医院を引き継ぐ「継承開業」を選択する医師が増加しています。継承開業では、既存の患者様や従業員、設備を引き継げるため、開業にかかるコストや時間を削減できるメリットがあります。
最後に、地域医療の継続という社会的意義も大きな要因となっています。特に地方では、クリニックの廃業が地域住民の生活に大きな影響を与えるため、事業承継を通じて医療サービスを存続させる重要性が高まっています。
これらのことから、医療機関の事業承継を選択する人が増加しています。
病院、クリニックの事業譲渡や事業承継について、当社にご相談を頂くきっかけとして以下の理由が多くなっています。
①後継者が不在である
・子どもが不在あるいは、医師の道に進んでいない
・子どもが医師ではあるが、別の地域に住んでおり、帰ってくる予定が無い
・子どもが医師ではあるが、継がせたくない
・雇っている医師はいるが、事業を継がれる予定はない
②従業員に問題を抱えている
・常勤医師、事務長、看護部長などのキーマンの退職
・従業員の高齢化や世代交代がうまくできていない
・採用の難化により、病床の維持や、患者様の対応人数に限界を感じている
③患者数の減少
・院長の高齢化や体力低下に伴い、外来数が落ちている
・地域の人口減少に伴う患者減少
・競合の増加
④不動産の管理
・古い建造物のため、老朽化が進み建て替えが必要だがその予算が無い
・診療、運営などはお任せして、不動産の管理業のみを行いたい
病院、クリニックごとに、様々な背景がございますが、「①後継者が不在である」「②従業員に問題を抱えている」というご相談を多くお寄せいただきます。
病院やクリニックにおける事業承継は事業規模の拡大や効率化、後継者不在の問題解決、地域医療の継続、経営基盤の強化などを目的として行われています。
先述のとおり、高齢化による社会保障費の費用負担増加などによって診療報酬の切り下げが続いており、病院の経営努力だけではどうにもならない状況にまできています。また慢性的な人材不足も続いており、これらを解決し地域医療や事業継続のために、事業承継が増加傾向にあるといえます。
病院・クリニックの事業承継には主に以下の形態があり、なかでも近年増加傾向なのが第三者へ病院やクリニックを承継する「第三者承継(M&A)」です。
病院やクリニックの事業承継には、一般企業のM&Aとは異なる特有の課題が存在します。さらに、個人クリニックと医療法人では事業承継の進め方が大きく異なるため、専門家の助言を得ながら慎重に進めることが重要です。
では次に、病院やクリニックの第三者承継の特徴や注意点について解説します。
病院は、必ずしもすべてが医療法人というわけではありませんが、多くの場合は医療法人の形態をとっています。医療法人は株式を発行していないため、主に「合併」「出資持分譲渡」「事業譲渡」のスキームが利用され、個人クリニックとはまた違った特徴が存在します。
病院(医療法人)の第三者承継の特徴や注意点は以下の通りです。
「事業譲渡」というスキームになります。個人クリニックにおける事業譲渡の特徴や注意点は以下の通りです。
◆医療法人の出資持分については、こちらのコラムで詳しく説明しています
>>>医療法人の事業承継 持分の譲渡を検討する
M&Aのメリットとしては、まず、規模の拡大による経済効果が挙げられます。組織間のシナジー効果により、効率的な運営が可能になる場合があります。
また個人で開業する場合には、医院の内装や医療機器を活用できることから、新規開業と比較すると初期の運転資金等の費用を抑えることができます。それ以外にも売上やかかる費用などもある程度予測ができるため、事業の見通しが立ちやすく、患者様をそのまま引き継ぐことができるため、開業時から売上をある程度確保することが可能といえます。
デメリットとしては前院長とクリニックの方針や考えが合致しない可能性があげられます。
引き継ぐ前と後で診療方針が異なる場合も少なくありません。既存の患者様が引き続き来院してくれるように、信頼を得られる配慮が大切です。
また既存の従業員との関係も同様のことがいえます。
ほかには医療機器や内装、採用等の費用が必要な可能性もあります。
承継元の資産を引き継げることは事業承継のメリットですが、医療機器が古いものであったり内装や院内設備の老朽化が進んでいたりするケースもあります。改装・修繕などが必要になると、想定より開業費用がかさんでしまう場合もあるため、開業後の経営に支障が出ないよう、事前に状態をしっかり確認することが大切です。
病院やクリニックの承継候補は、それぞれ特性が異なります。
■病院
・主な承継候補は医療法人
・同一医療圏での医療法人の承継が多い
■クリニック
・主な承継候補は、開業を希望されている個人の医師
・現勤務先との兼ね合いから、春の承継タイミングが多い
・同一医療圏での医療法人の承継もある
・介護事業を運営する法人の承継ニーズも高まっている
規模が大きくなるほど、承継候補先は法人となり、規模が小さくなるほど、個人の開業希望医師が承継候補となります。
地域や医療サービスによっても変わりますが、双方の希望がマッチするように意向をすり合わせて承継を進めます。
病院・クリニックの事業承継は個々の事例によって詳細な手順が異なる場合がありますが、一般的な流れは以下の通りです。
また病院とクリニックでは行政申請が異なり、地域によっての特性もあります。手続きを進めていく際は、まずは地域の保健所や医務課と相談し、正しい順序をすすめていくことになります。
◆医療法人を承継する際の行政手続き
【申請内容】 | 【申請先】 | 【必要書類】 |
医療法人変更登記申請書 (理事長変更登記) | 法務局 | ・理事会議事録 ・社員総会議事録 ・辞任届(旧理事長) ・就任承諾書(新理事長) ・印鑑証明書 ・新理事長医師免許証写し ・資産総額がわかるもの |
役員変更届 | 都道府県 | ・医療法人役員変更届 ・印鑑証明書 ・辞任届(旧理事長) ・就任承諾書(新理事長) ・社員総会議事録 ・理事会議事録 ・新理事長の医師免許証写し |
保険医療機関届出事項変更届 | 厚生局 | ・保険薬局届出事項変更(異動)届 ・保険医登録票写し ・役員変更届写し ・保険医療機関指定通知書の原本 |
◆ クリニック(個人事業)を譲渡する際の行政手続き
【申請内容】 | 【申請先】 | 【必要書類】 |
・保険医療機関廃止届 | 厚生局 | ・保険医療機関又は、保険薬局の廃止届 |
・診療所廃止届 | 保健所 | ・診療所廃止届 |
・個人事業廃止届 | 税務署 | ・個人事業の開業・廃業等届出書 |
※詳細は、各管轄のホームページをご覧頂くか担当部署にご確認をお願いいたします。
上記申請に加え、必要書類が地域で異なる場合がありますので事前に調べ、慎重に進めていく必要があります。
病院、クリニックの事業譲渡や事業承継において留意する点を解説します。
■秘密情報の管理
事業譲渡、承継に関する話は極めて重要な情報です。
思わぬところで情報が漏れ伝わってしまうと、いつのまにか従業員や患者様に知られてしまい
事業運営に大きな影響が出る可能性もあります。
情報をいつどのタイミングで誰に公開するかは細心の注意を払う必要があります。
■医師会入会の有無
医師会に所属しているかどうかによっても進め方が変わります。
また、承継や運転資金の調達額や入会スケジュール等も地域によって異なるため双方でのすり合わせが必要となります。
■従業員へのフォロー
承継後も継続して勤務される従業員は多くいらっしゃいます。
承継後も気持ちよく働くための諸条件のすり合わせはもちろんですが、事業譲渡や事業承継の場合、従業員との雇用契約の再締結も必要となってきます。
給与や勤務時間、退職金、有給などを含む労働条件のすり合わせは重要なポイントとなります。
■患者様への説明
患者様の多くは、現院長先生を慕って通院されています。
そのため、承継候補にスムーズに引き継ぐためには、双方での協力が必要不可欠です。
引継ぎの仕方や、承継前後での診療体制を整える必要があります。
本コラムでは、病院、クリニックの事業譲渡、事業承継について解説しました。
もし、ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度お問い合わせください。
作成日:2023年11月6日