政府が整備を進めている「全国医療情報プラットフォーム」の一部として、
「介護情報基盤」が構築されようとしています。
>>>全国医療情報プラットフォームについてはこちらのコラムで詳しく解説しています。
「介護情報基盤」とは介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で介護情報を共有できる仕組みです。2022年から介護情報基盤についての議論を進めてきましたが、いよいよ大詰めを迎えています。
本コラムでは介護情報基盤についての概要から、2024年7月に行われた社会保障審議会介護保険部会での議論を含めた最新情報をお届けします。
2040年頃には、団塊ジュニア世代の高齢化により高齢者人口がピークを迎え、85歳以上の人口増加に伴い介護需要が拡大・多様化すると予測されています。さらに生産年齢人口の急減により介護分野を含む深刻な人材不足が見込まれます。この状況下で質の高い効率的な介護サービスを提供するには、ICT等を活用した業務効率化が緊急の課題となっています。
そこで出てきたのが「介護情報基盤」で、令和4年(2022年)12月20日の社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」で、介護情報基盤整備の在り方を検討する必要性が明記されました。
その後、令和5年度の介護保険制度の見直しに伴い「健康保険法等の一部を改正する法律」で、
介護情報基盤の整備が法的に位置づけられています。
介護情報基盤は、要介護認定情報、LIFEデータ、ケアプランなど重要な情報を集約し、利用者同意のもと、利用者本人、市町村、介護事業所、医療機関の関係者間で電子的に閲覧・共有する仕組みです。
基盤整備の目的は以下の通りです。
介護情報基盤の法的な位置づけは、健康保険法等の一部改正により地域支援事業として位置づけられます。また実施主体は市町村が地域支援事業として実施し、国保連・支払基金への委託も可能と示されています。
介護情報基盤では、事業者・市町村・ケアマネジャー・利用者・医療機関などの間で、
以下の5つの項目が利用者同意のもと共有されます。
1.介護レセプト情報
2.要介護認定情報
3.LIFE
4.ケアプラン
5.住宅改修費利用等の情報
出典:厚生労働省|介護情報基盤について
自治体・利用者・介護事業者・医療機関の視点から、介護情報基盤で期待される効果は以下の通りです。
これらの効果により、介護情報基盤は介護サービスの質の向上と効率化、そして医療と介護の連携強化に大きく貢献することが期待されています。
介護情報基盤に被保険者の資格情報(被保険者証・負担割合証等に記載されている情報)が格納されることから、2024年7月に行われた社会保障審議会介護保険部会では、介護保険被保険者証をペーパーレス化し、マイナンバーカードに一本化するといった方針について議論されました。
現在、65歳到達時に介護保険者証を一斉送付していますが、市町村では保険証の作成や郵送、返送に関する事務負担が発生しています。また被保険者がサービスを受ける際、事業所に保険証や負担割合証を提示する必要がありますが、被保険者は複数の保険証を管理・提示するといった負担があります。さらに事業者側では被保険者が保険証を紛失した場合に、再度訪問するという負担が生じています。
これらをすべてペーパーレス化することで、でさらなる業務効率化や利便性を図るというものです。
介護保険証のペーパーレス化は課題が多く残されています。まずはマイナンバーカードを持たない高齢者への配慮が必要です。厚生労働省は、マイナンバーカードを保有していない認定者等に対しては、介護保険の利用者であることを記載した書面を別途交付する方向で検討しており、すでに交付されている被保険者証の取り扱いはについては、サービス利用時に現行の保険証を利用可能にするといった対応が考えられるとしています。
また介護情報基盤に未対応の事業所においては、全事業所が対応するまで一定期間を設け、その間に全ての要介護認定者等に対して、被保険者資格情報や利用者負担割合を記載した書面を、交付することが考えられます。一定期間は紙の保険証との併存や、現在の保険証を簡素化するなどの対応が検討されています。
議論の中では、多くの高齢者が新たな技術に対応できるかどうかや、認知症高齢者への十分な配慮が極めて重要であるとの意見が強調されています。そもそも、高齢者のマイナンバーカード普及率が不十分であるため、介護保険証のペーパーレス化はかなりの時間がかかる課題と考えられており、高齢者のデジタル化への対応と介護サービスの円滑な提供を両立させるためには、段階的な移行と十分な配慮が必要ではないでしょうか。
マイナンバーカードによるペーパーレス化以外にも、以下のことが懸念されています。
介護情報は非常に機密性の高い個人情報を含むため、厳重に保護する必要があります。不正アクセスや情報漏洩を防ぐための強固なセキュリティ対策が求められますが、厚生労働省は介護情報の取り扱いについて「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえつつ、介護事業所におけるシステムの運用の実態等を考慮して、取り扱う必要があるとしています。
また介護事業所と介護情報基盤間の情報連携はインターネット回線を用いる方式を検討しており、通信ログの取得・保管・監視や、ログインルールの設定等でのセキュリティ対策を行うとしています。
今後検討される事項として、介護事業所で端末の管理、職員のアクセス権限の管理等の対策を実施することとし、これらについて既存のガイドラインを、介護事業所向けにわかりやすく作成しなおすとしています。
事業所が介護情報を取得する際に、認知症等で本人から同意の取得が適切に得られないケースの場合、「だれが本人に代わり同意をするのか」また「それをどのように認めるのか」という問題があります。本人確認のタイミングについては、現在以下のようにまとめられていますが、今後さらに慎重な検討が必要とされています。
論点 | 対応案 |
取得するもの | 情報を閲覧する介護事業所等がそれぞれ同意を取得する。 |
情報共有の範囲 | 同意を取得した介護事業所等にのみ当該利用者の情報が共有される。 |
所得の時点 | 介護事業所等がサービス利用の契約を利用者との間で行う際などに、利用者の介護保険資格の確認とともに行う。 |
所得の方法 | 介護事業所等が介護情報基盤に接続し、表示される画面に沿って本人が入力する。 |
本人確認 | 電磁的方法による同意の前提となる本人確認を確実かつ効率的に行い、業務負担軽減を進める観点から、マイナンバーカード(利用者証明用電子証明書)を用いることを原則とする(※ただし、要介護認定情報のケアマネ事業所等への共有については、市町村という公的主体が要介護認定申請時に本人確認した上で本人同意を取得していることから、当該同意に基づく介護情報基盤を通じた共有も可能とする) |
所得の際の説明 | わかりやすい説明資料や統一された同意様式を用いる。 |
所得の範囲 | 当該利用者に係る介護情報について一括して同意を取得する。 (※ただし、特定の情報のみ不同意とする場合も考え、情報の種類(要介護認定情報、LIFE情報等)ごとに個別に同意を取ることも可能とする) |
有効期限 | 取得した同意は、原則として当該介護事業所等を利用している期間は有効なものとする。 |
撤回 | 具体的な方法については、他分野での対応の状況を踏まえて検討する。 |
取得困難な場合 | 他分野での対応を踏まえつつ、同意の法的な位置づけ等について引き続き検討する。 |
出典:厚生労働省|介護情報基盤について
国はシステム設計、事業者支援策の構築、自治体システム改修の支援、早急な情報提供等を行うとし、介護情報基盤の施行に向けては、市町村(介護保険者)、介護事業所、主治医意見書を作成する医療機関において、以下の準備が必要となることを示しました。
具体的なシステム改修の内容、システムの仕様等については、介護情報基盤の調達仕様書、自治体システム標準化仕様書などで、情報公開される予定です。
主体 | 令和8年4月までの課題(主なもの) |
国 | ・システム設計・開発にかかる調整、事業者支援策の構築、 自治体システム改修の支援、早急な情報提供等 |
市町村 (介護保険者) | ・介護保険事務システムの標準化に伴う改修等 (介護情報基盤との連携が含まれる) ※ 介護情報基盤の施行までに標準準拠システムへの移行が 間に合わない場合は、既存システムの改修によって対応 |
介護事業所 | ・インターネット環境の整備 (既存端末も利用可能) |
主治医意見書を 作成する医療機関 | ・主治医意見書を電子的に共有するための対応 (既存ソフトの改修等) 等 |
介護情報基盤は市町村の地域支援事業の中で運用されることになっているため、システムの改修費について国からの財政的なサポートが必要との声もあがっており、介護事業所におけるカードリーダー導入の支援策なども含め、事業所・施設の負担を極力軽くする措置を並行して検討していくとしています。
出典:厚生労働省|介護情報基盤について
介護情報基盤は、事業者に環境整備やセキュリティー対応などを求めた上で、2026年4月1日からの施行に向け、今後も介護保険部会において議論が行われていきます。
介護情報基盤には大きな可能性がある一方で、セキュリティ対策や本人の同意取得、システム導入にかかるコストなど慎重に検討・対応すべき課題も多いと言えます。また小規模の事業所や高齢の介護スタッフにとって、システム導入・運用の負担が大きいと考えられるため、介護の質向上のバランスを取りながら、段階的に進めていく必要があるでしょう。