2025年は日本の人口の年齢別比率が劇的に変化し「超高齢化社会」へ突入することから、大きな分岐点の年になります。雇用、医療、福祉等、さまざまな分野に影響を与える「2025年問題」は、今後の医院運営に大きく関わってくる問題です。 本コラムでは「2025年問題」が医療業界に及ぼす影響と、今後医療機関が対応すべき点について詳しく解説していきます。
「2025年問題」とは、2025年に向けて日本が直面することが予想される様々な社会的・経済的な課題や問題のことを指します。
「2025年問題」は日本全体に以下のような影響を与えます。
・高齢化社会の進行
2025年には団塊の世代が全て75歳以上となり、日本の高齢化がさらに進行します。
これにより、医療・介護の需要が増加し、社会保障費の増大が予想されます。
・労働力不足
少子化により労働人口が減少するため、経済活動に必要な労働力の確保が難しくなります。
これにより、経済成長の鈍化や産業の空洞化が懸念されます。
・地方の過疎化
高齢化と人口減少により、地方の過疎化が進行します。
これにより地方の経済活動が停滞し、地域のインフラや公共サービスの維持が困難になる可能性があります。
・インフラの老朽化
高度経済成長期に建設されたインフラ(道路、橋梁、建物など)が老朽化し、
その維持・更新が必要となる時期が2025年頃とされています。
・情報格差
高齢者の間でデジタル技術の普及が遅れているため、情報格差が広がる可能性があります。
これにより、高齢者が必要な情報やサービスにアクセスしづらくなる問題が考えられます。
加速する高齢化の影響を最も受けるのが、医療業界だといわれています。
医療業界への影響として、具体的には以下のようなことが考えられます。
これらの課題に対処するためには、医療制度の見直し、医療従事者の育成・確保、地域医療の強化、
テクノロジーの活用など、多方面からの取り組みが必要となります。
>>>介護業界における2025年問題の影響についてこちらのコラムで詳しく紹介しています。
少子化により労働人口がますます減少していきますが、医療業界においても医師、看護師などの医療従事者が不足することは避けられません。
特に地方や特定の診療科では人手不足が深刻であり、医療の質に影響を及ぼす可能性があります。
2025年以降、医療需要と供給のバランスが崩壊してしまう可能性があるため、どのようにバランスを保っていくかが最重要課題といえるでしょう。人材不足に対応するため、医師の働き方改革の推進や処遇改善など、人材確保のための施策が進められています。
もう一つの課題として 医療業界は他の産業と比較してデジタル化やITインフラの整備が、
大きく遅れていることがあげられます。
限られた人材で医療サービスを提供するためには、生産性向上や業務効率化を上げることは必須です。
新型コロナウイルス感染症をきっかけに、オンライン診療・電子処方箋・オンライン服薬指導などの環境整備も大きく進みましたが、カルテや問診票などを紙ベースで行う医療機関も、まだまだ多いのが現状です。
人手不足による労働力を補うために、医療機関ではICTの導入が進められており、
ICTを活用することで業務の効率化と医療の質の向上が期待されます。
医療現場でICTを活用した例は具体的に以下のようなものがあります。
>>>電子カルテ情報共有サービスについて詳しくはこちらのコラムで解説しています。
2025年度に行われた診療報酬改定では、2025年問題に向けて最後の改定ということから、
「いかに限られた人材で医療を支えていくか」という視点で見直しが行われました。
大きなポイントは以下です。
先述の通り医療現場でのICTの導入は、2025年問題に対応するために大きなカギとなりますが、
近年はAI(人工知能)によって医療技術そのものが、猛スピードで進化を遂げています。
AIによって医療の質の向上を目指した取り組みのことを「医療AI」といい、ゲノム医療、診断(問診、画像診断)、治療(手術支援、治療計画の立案)、医薬品開発など活躍の領域は多岐にわたります。
2022年度の診療報酬改定でも「人工知能技術(AI)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)」が、保険適用されることが決められるなど、AIを用いた画像診断支援の医療領域への期待が高まっています。
医療AIを活用することで、以下のメリットがあげられます。
医療現場におけるAIの活用事例を紹介します。
医療AIは、レントゲンやMRIなどの画像解析において高い精度を発揮し、がん、骨折、肺疾患などの早期発見が可能になります。最近は医療機器にAIが組みこまれているケースも多く、患者のモニタリングや診断の精度が向上しています。多くの患者データを学習しているAIだからこそ、小さな異常にも気付くことができ、病気の早期発見や診断を支援することができます。
AIを活用したオンライン診断は質問に対して回答していくことで、適切な診療科や緊急度、関連する病名がわかるというものや、AIを搭載したチャットボットが患者の質問に対応し、簡単な医療相談を行うといったものがあります。また、AIが搭載されたカメラなどの機器で患者の状態を自動的に分析し、AIの診断結果をもとに医師が治療をすることもできます。
これが普及することより、感染症等で医療機関へ行きにくい場合や遠隔地にいる場合でも、地理的制約を超えて医療サービスを受けることができるため、都市部と地方の医療格差が縮小され、医療アクセスが向上するでしょう。
このように医療AIは、医療現場の業務負担の軽減、効率を上げるための道具として期待されています。
コスト面や信頼性の担保など課題も多くありますが、医療AIは今後もさらに発展し、治療の質の向上や早期発見、遠隔医療に貢献するでしょう。
少子高齢化が進む日本では、医療における地域格差が広がっており、特に地方では医療従事者が不足し、
施設や機器も十分に整っていないのが現状です。
医療ニーズがさらに拡大するなか、地域医療の格差をなくすカギとなるのが「地域医療構想」です。
地域医療構想とは、急激に増える高齢者の問題を解決するために策定された取り組みのことです、政府は高齢化や労働人口減少などによる医療需要の変化に対応するため、各地域ごとに適した医療体制を作ろうしています。
質の高い医療を持続的に、かつ効率良く提供するため、医療機関ごとに「高度急性期、急性期、回復期、慢性期」の4つの医療機能で区分して、役割を明確化させ、地域内で連携を強化することを目指しています。
また、政府は地域ごとに過剰とされる病床機能を減らし、不足している機能の病床数を増やすなど再配置をし、全体で医療資源の最適な配分を行っています。
高齢者の一人暮らしや夫婦のみの世帯、認知症高齢者等の増加に伴い、高齢者が地域での生活を継続するために、多様な生活支援ニーズが高まることが見込まれます。しかし、今後はサービスを受けたくても受けられないという状況になりかねません。さらに大都市部と町村部等で高齢化の状況には、大きな地域差が生じています。
こうした現状を受け、国は従来国主体であった介護サービスなどを地域主体のものに変えようと、国のサービスだけでなく、地域の力も使って高齢者を支える仕組みをつくろうとしています。
これがまさに「地域包括ケアシステム」で、2025年までを目途に構築が進められてきました。
地域包括ケアシステムは、高齢者が重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう支援することを目的とし、地域に暮らす高齢者を一体的に支援できる体制構築を目指します。
地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。政府は在宅医療や地域密着型サービスを推進するために、医療や介護に関する相談窓口(地域包括支援センター)を各市町村に設置し、近隣の医療機関や訪問看護事業所、介護事業所間の連携を強化させることで、病院や施設への依存を減らし、持続可能な医療・介護体制を目指しています。
高齢化により支える側の若い労働力が不足すれば、社会保障費の負担増加は避けられません。年金支給額の減少や支給開始年齢の引き上げはもちろん、年金制度自体の存続が危ぶまれます。 社会保障や年金制度などの環境の不安定さは、患者にも影響を与えています。
高齢者の割合が増えるほど医療費も増大するため、健康寿命をいかに伸ばせるかが重要といわれています。健康寿命とは、健康に問題なく日常生活を送れる期間を指しますが、高齢者が自立して生活できる期間を延ばすことで、介護の必要性を減少させ医療費用・介護費用を抑制することにもつながります。
そこで国民一人ひとりが医療費を抑えるためにできることとして、「予防医療」の考え方に注目が集まっています。予防医療とは病気になってから治療を受けるのではなく、そもそも病気にかからないように対策をすることを指し、病気の早期発見や疾病リスクの軽減を目的としています。生活習慣病などの慢性疾患は、早期に発見し適切な対策を行うことで、病気の進行を防ぐことが可能です。例えば、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の早期発見や適切な管理は、心臓病や脳卒中などの重篤な合併症の予防にもつながります。
これは、患者のQOL(生活の質)を維持し、社会全体の医療負担を軽減することにつながるのです。
2021年度に予算ベースで約40.7兆円だった医療費の保険給付金額が2024年には約42.8兆円に達しており、社会保障費の増大は避けることのできない深刻な課題です。国や自治体は、医療費の適正化や効率的な医療提供体制の整備などを進めていく必要があります。
出典:厚生労働省|人口の推移、社会保障費の見通し
出典:厚生労働省|給付と負担について
こうした医療費の増加は、医療費の個人負担にも影響を及ぼしています。2022年10月からは75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」の改正により、一定の所得のある高齢者の医療費自己負担が1割から2割へと引き上げられました。
また2025年6月1日からは医療従事者の賃上げなどのため、初・再診料や入院基本料といった報酬が引き上げられ、初診時にかかる料金が30~730円、再診時も20~120円上乗せとなりました。
これにより、患者の窓口負担(年齢や所得に応じて1~3割)も増えることになります。
医療の永続性という観点では、2025年だけを意識していれば良いわけでなく、遠い先とも思える2040年も見据えていく必要があります。2025年問題を背景に策定された地域医療構想は、すでに2040年を視野にいれ「新たな地域医療構想」として議論がスタートしています。
2040年には入院患者数がピークを迎え、人口減少により医療需要も減少していくといわれています。
しかしすでに2020年までに患者数のピークを迎えた医療圏もあり、医療機関は転換期を迎えています。
今後の医療機関に求められるのは、地域医療構想に対応した上で、医療圏の中でどの役割を果たすのかを明確化させて、経営戦略を立てることです。
経営戦略の一つとして人材確保のためのM&Aや、シナジーが発揮できる介護施設の買収も、有効な手段であるといえるでしょう。