令和6年度報酬改定では6年に一度の医療・介護・障害福祉サービス等の報酬改定が同時に行われるトリプル改定となりました。本コラムでは令和6年度診療報酬改定・介護報酬改定で多く見受けられた医療・介護連携に係る新設加算や見直し項目について解説していきます。
令和6年度の診療報酬と介護報酬の改定スケジュールは以下の通りです。
医療と介護の連携強化の必要性は以前から叫ばれていますが、理由として「2025年問題」が大きく関係しています。2025年問題とは、1947~1949年(第一次ベビーブーム)生まれのいわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となることによって起こる、社会保障費の増加や働き手不足などの社会問題のことをいいます。2025年を境に日本は超高齢社会へ突入し、高齢者の医療と介護に対する需要が急激に増加していきます。一方で少子化により、働き手となる若年層の人口が減少し、需要と供給のバランスが崩れることで病院や介護施設が圧迫され、現場の機能不全を引き起こす恐れがあります。政府はこの「2025年問題」に対応すべく、地域包括ケアシステムの構築を目指してきました。地域包括ケアシステムとは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する体制のことです。なるべく在宅での診療・介護ができるように、地域が連携しながら医療・介護サービスの提供ができる仕組みを整えることで、病院・介護施設の負担を軽減するという狙いです。
一方で課題としてあげられているのが、地域間でのサービスの格差や医療と介護の連携不足です。今後限られた労働力で増え続ける高齢者をサポートしていくために、地域一体となった医療・介護サービスの連携強化が求められているのです。
○「2025年問題」が介護業界に与える影響について、詳しくはこちらのコラムでもご紹介しています。
こうした経緯を踏まえて令和6年度 診療報酬改定・介護報酬改定の具体的な検討に入る前の2023年3月から5月にかけて、医療と介護等の連携・調整をより一層進めるという目的のもと、医療側の「中央社会保険医療協議会総会(中医協)」と介護側の「社会保障審議会介護給付費分科会(社保審)」で、以下の内容について審議が行われました。
意見交換を踏まえた議論が行われた結果、同時改定では医療・介護の連携の評価についての項目が多く盛り込まれました。
〇令和6年度診療報酬改定のポイントはコチラで紹介しています。
〇令和6年度介護報酬改定のポイントはコチラで紹介しています。
介護老人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム(特養)および介護医療院の入所者の病状急変時に、平時から連携体制を構築している協力医療機関の医師が診察を実施した上で入院の必要性を判断し、入院させた場合の評価を新設しました。
介護保険施設等の入所者の病状の急変時に、平時から連携体制を構築している協力医療機関の医師が往診を行った場合について新たな評価が行われました。
医療機関と介護保険施設等の適切な連携を推進する観点から、在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院、在宅療養診療所及び地域包括ケア病棟を有する病院において、
「介護保険施設の求めに応じて協力医療機関を担うことが望ましい」ことが新たに施設基準に追加されました。
感染対策向上加算の施設基準に、「連携する介護保険施設から求めがあった場合に現地に赴き、感染対策に関する助言を行うこと及び、院内研修を合同で開催することが望ましい」ことが追加されました。また感染対策の専門的な知見を有する者が、介護保険施設等からの求めに応じて専門性に基づく助言を行えるようにする観点から、感染対策向上加算におけるチームの職員の専従業務に当該助言が含まれることを明確化しました。
地域包括診療料等の算定要件に「ケアマネージャーとの相談に応じること等」が追加されました。また「担当医がサービス担当者会議又は地域ケア会議への参加実績又はケアマネジャーとの相談の機会を確保していること」を施設基準に追加されました。
在宅での療養を行っている患者に対し、医師・歯科医師が計画的な医学管理を行う際、関係職種(看護師、ケアマネ、管理栄養士など)がICTを用いて記録した診療情報などを活用した場合の新たな評価が新設されました。
出典:厚生労働省|令和6年度診療報酬改定の概要 【在宅(在宅医療、訪問看護)】
介護保険施設等(特養・老健・介護医療院)において協力医療機関を定めることが義務付けられました。協力医療機関と1年に1回以上、入所者の病状の急変が生じた場合等の対応確認を行うなど、平時からの連携を進めることで、施設での急変時の相談対応や入院調整、早期退院といったスムーズな流れが期待されています。この義務化には3年間の経過措置が設けられていますが、特定施設入居者生活介護や地域密着型特定施設入居者生活介護などのサービスについては義務化されておらず、協力医療機関の指定は努力義務となっています。
協力医療機関の対象としては、在宅療養支援病院、在宅療養支援診療所、地域包括ケア病棟(200床未満)を持つ医療機関、在宅療養後方支援病院などで、「施設から近距離であることが望ましい」とされています。なお協力医療機関には次の3点を満たしている必要があります。
介護保険施設等(特養・老健・介護医療院)において、協力医療機関との実効性のある連携体制を構築するため、入所者等の現病歴等の情報共有を行う会議を定期的に開催することを評価する新たな加算ができました。また特定施設でも同様に定期的な会議で入居者の現病等の情報共有を行うよう、従来の「医療機関連携加算」から「協力医療機関連携加算」へと見直しが行われました。
高齢者施設(介護保険施設等(特養・老健・介護医療院)、グループホーム、有料老人ホーム、ケアハウス)について施設内で感染者が発生した際、感染者の対応を行う医療機関と連携し、施設内で感染者の療養を行うことや、他の入所者等への感染拡大を防止することが求められることから、以下を評価する新たな加算が設けられました。
また、感染対策に係る一定の要件を満たす医療機関から、施設内で感染者が発生した場合の感染制御等の実地指導を受けることを評価する新たな加算が設けられました。
介護保険施設等(特養・老健・介護医療院)の入所者が医療機関へ退所した場合に医療機関に対し、入所者等の同意を得て、当該入所者の心身の状況、生活歴生活支援上の留意点等の情報を提供した際に、入所者1人につき1回限り算定することができます。
入院中にリハビリテーションを受けていた患者に対し、退院後、介護保険でのリハビリテーションの計画を作成する際、入院中に医療機関が作成したリハビリテーション実施計画書を入手し、内容を把握することが義務付けられました。また、リハビリテーション事業所の理学療法士などが、医療機関の退院前カンファレンスに参加し、退院時共同指導を行うことを評価する加算が新設されました。
「入院時情報連携加算」は居宅介護支援事業所の利用者が入院する場合において、医療機関に利用者情報を提供することで算定することができる加算です。現行では「入院後3日以内、または7日以内」に病院などの職員へ利用者の情報提供を評価していますが、さらに迅速な情報連携を促すためこれを「入院当日、または3日以内」に見直されました。
通院時情報連携加算とは、居宅介護支援所のケアマネジャーが利用者の診察に同席し、担当医師と情報を共有することで、算定できる加算で2021年の介護報酬改定で新設された項目です。算定率が低いことから今回の改定で算定要件が緩和され、「医師の診察を受ける際に同席すること」に加え、「歯科医師の診察を受ける際に同席すること」が算定要件に追加されました。
出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について
今後さらに医療と介護がシンクロする報酬制度になっていくと予測されますが、連携の要となるのはやはり「情報共有」です。2024年度の診療報酬・介護報酬改定で大きなテーマとなった「DX」や「ICT」について、ICT活用による情報連携を行うことで新たな評価が行われました。特に情報共有の中心となるケアマネージャーのICT活用が進めば多職種や医療機関との連携が進むと考えられます。介護・医療業界のICT化においてはコストや導入までの時間、情報漏洩のリスクなどを考えるとまだまだ進んでいません。しかしICTをうまく活用できれば業務負担軽減につながり、さらなるサービスの質向上につながるといったメリットもあります。今回の改定を機に一度ICT導入を検討してみてはいかがでしょうか。
このように医療・介護連携強化が求められる中、近年では医療法人が介護事業を買収するケースなどが見受けられます。報酬改定を踏まえ事業の縮小による経営の立て直しや人材確保のための事業拡大等をお考えの方も多くいらっしゃるかと思います。運営されている事業の価値、運営法人の価値が知りたい、M&Aに興味があるなど、どんな内容でも構いませんので、気になることがございましたらCBパートナーズまでお気軽にお問い合わせください。