2022年9月以降、1ドル=140円台という円安が続いています。140円台は1998年8月以来およそ24年ぶりとのことで、今世紀最大の円安水準となっています。
介護事業においても、コロナ禍に続き、円安、物価上昇は大きな影響を受け始めています。
今回は、円安が高騰している日本において、介護業界がどのような影響を受けているのかについて紹介いたします。
2021年から円安の流れはあったものの、それを一層加速させたのがロシアのウクライナ侵攻です。世界で商品価格が高騰していることや資源を輸入に頼る日本にとっては貿易赤字も拡大し、影響が顕著に表れました。
20年以上前であれば、自動車などの輸出産業における海外需要など、円安によるメリットもありましたが、リーマン・ショック以降、日本企業は生産拠点の海外移転を進めており、今回の円安は国内の多くの事業者にとってメリットよりもデメリットの方が大きいことが予想されます。
コロナ禍によって経済や雇用へのダメージに気づきにくくなっている可能性もあります。
例えば、農業分野を含む技能実習生として日本が最も多くの人材を受け入れてきたベトナム人労働者の”日本離れ”が進んでいます。これは、新型コロナウイルスによる水際対策や雇用停滞も要因ではありますが、円安に伴う賃金の低下も一因です。
実際にオーストラリアはベトナム人労働者の受け入れが増加しており、日本の技能実習生よりもオーストラリアが受け入れるベトナム人労働者の賃金の方が高いともいわれています。
コロナ禍が2年以上続いていることで、海外からの労働力不足の原因が一括りにされがちですが、コロナ禍だけではない経済的な背景も大きいと思われます。
従来は良くも悪くも経済の影響を受けにくいとされてきた介護業界ですが、先に述べた技能実習生離れなど、巡り巡って少しずつ業界全体の人材不足に拍車がかかっているといえるでしょう。
技能実習生にとって、自国の通貨価値が低いため、介護の仕事が重労働でも祖国へ仕送りをするために働いているのが現状です。
円安の影響により日本で働くメリットが少なくなれば、技能実習生は、労働が過酷な割に給料が低い介護職を日本に来てまで働くことを望まなくなります。
これまでは世界経済に関するニュースを目にした際に、「半導体不足」や「建築資材の高騰」等といったフレーズが流れてくることはありましたが、今後は「介護人材の不足」といったトピックが挙げられるなど、国際経済の影響を介護業界が直接的に受ける未来も近いかもしれません。
介護人材の不足問題以外にも、円安による物価上昇がもたらす介護業界の影響として、原油価格や物価高騰によるコストの増加です。
ガソリンや水道光熱費、食料品などの物価高騰は、介護事業の経営者にとって死活問題となっております。
介護事業者はサービスの提供料金が制度によって定められているため、その他のサービス費を値上げるしかありません。
一方で、収入の多くを年金に頼っている高齢者にとって、食費や光熱費の高騰は、介護サービスの利用を控える行動をとらざるを得ない状況になる可能性があります。
介護事業者は、コストの増加に加え、利用者減少という負の連鎖により、経営難に陥るリスクが高まってきています。
各自治体では、介護事業所などに対し支援策を拡充を促していますが、施設運営でかかるコストの見直しを検討することも手段の一つです。
この機会に、食材の仕入れ先の変更、人件費が適正か、不採算施設の譲渡など、様々な角度から見直してみてはいかがでしょうか。